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その佳き日まで −ミディアミルド物語外伝集 3−

  • G-19〜20 (ハイファンタジー)
  • そのよきひまで
  • 野間みつね
  • 書籍|A5
  • 124ページ
  • 500円
  • 2011/12/03(土)発行

  • 待てって言ってるだろ、この、わからず屋!!


     マーナ近衛隊の副長であるノーマン・ティルムズ・ノーラは、さる騒動が元となり、上官の娘マリ・ジェラルカ・マーラルと婚約した。挙式までは二か月。長くもなく短くもない、恙なかるべき筈のその婚約期間は、しかし、何事もない穏やかなものとはならなかった……

      『ミディアミルド物語』のサイドストーリーズを収録したシリーズ。表題作の他、短編「ささやかなる陰謀」及び「命知らず」を収録。

     === 以下抜粋 ===

    「おや、お久し振り。珍しいね、今日はひとりかい?」
     下町の賑わいを抜けて辿り着いた〝月光亭〟の扉をくぐったタリー・ロファは、女将おかみのそんな言葉に肩を竦めた。
    「このところ、先輩に振られてばかりなんで……アンデセンを一杯、水で半分に割ったのを」
    「おやまあ。いきなり蒸留酒。タリー坊や、何かあったの?」
     目を円くする女主人に向けて曖昧に笑い返した後で、タリーは、さりげなく店内を見回した。見たところ、近衛隊員の姿は見当たらない。彼は何となくホッとしながら防寒着を脱ぎ、そして、いていた止まり木に腰を落ち着けた。
    「お城からそのまんま来たんだね。お疲れ様」
     アンデセン酒の木杯を彼の前に置いた赤毛の女主人ドリー・フーズ・アーベンは、両手を差し伸べて制服の防寒着を預かってくれながら、温かい表情で彼を見つめた。
    「外は寒かっただろ」
    「ええ、今晩遅くからは雪になるんじゃないかってくらい」
     タリーは、漆黒の制服のボタンをひとつ外すと、襟元を少し開けた。酔客達の人熱ひといきれで、店内はかなり暖かかった。
    「でも、雪は好きだから、降ってくれたら嬉しいです」
    「初耳だね。確か坊や、寒いのは苦手なんじゃなかったっけ」
    「寒さは確かに苦手ですね。初夏の生まれですし。……でも、雪は好きなんです」
    「ふうん……」
     ドリーは翠玉エメラルドの瞳を興味深げにくるっと光らせたが、ふっと、その視線をタリーの顔から横合へと滑らせた。
    「一等近衛さんはこう言ってるけど、あんたはどう? 四等将官さん」
     タリーは、相手の視線が向かった先を見て驚いた。彼の左隣、ひとつ椅子を間に挟んだ席で静かに木杯を傾けていたその先客は、彼に軽く会釈し、それからドリーに苦い笑みを向けた。
    「困りますね。こういう所では肩書もしがらみもなく時間を過ごしたいと思っているのですが」
    「許してちょうだいな。好奇心って奴がムクムク来たのさ。こればっかりは病気でね、昔っから、ちっとも治らないの」
    「治す気もないようですね」
     それは、マーナの誇る若き謀将、ケーデル・サート・フェグラムその人であった。タリーは何故さっき自分が店内を見回した際にこの青年将校の存在に気付かなかったのかと訝ったが、その理由は一瞬遅れてわかった。ケーデル青年は、いつもタリーが城内で見慣れているクード風の服──肩を覆うほこりよけが付いた、ロングコートのような代物──を着ていなかったのである。下町の伊達青年宜しく、明るめの色の上衣に濃い色の胴着を上から重ね、類稀な輝きを持つ金色の髪を、くすんだ灰色の縁なし帽で半ば覆い隠している。そして無論、城内で会う時のように片手用長剣リランを提げているわけでもない。これでは、装いを一瞥した程度で〝マーナの知将ドー・ルーム〟だと気付く方が、逆にどうかしているだろう。
    「好奇心なくしたら人生は終わりさ。特にこのアタシはね。で、どうなの、ケーデル坊や」
    「実を言えば、余り好きではありません」
     ケーデルは穏やかな声で応じる。
    「おや、冬の生まれじゃなかった?」
    第十二月だいじゅうにげつ、秋の終わりです」
    「そうだったね。寒いのは苦手?」
    「南方育ちですから、得意ではありませんね。……しかし、雪のことはまた別です」
     そう応じて、ケーデルは、タリーの方に顔を向けた。
    「無躾ながら、タリー一等近衛は、どうして雪がお好きなのですか」
     タリーは、木杯の中のアンデセンを少しずつ口に含んで味わいながらふたりの遣り取りを聞いていたが、問われてにっこりと微笑んだ。
    「階級はやめませんか、ケーデル殿? 折角こういう席に居るんですから」

         ───「その佳き日まで/再び、結婚しない男たち」より

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