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まなざし (上) 【残部は見本誌のみ/当日までに品切れの可能性あり】

  • G-19〜20 (ハイファンタジー)
  • まなざし じょう
  • 野間みつね
  • 書籍|A5
  • 332ページ
  • 1,500円
  • 2003/07/31(木)発行

  • 俺は、おぬしがよこせと言うなら、右腕どころか命さえくれてやってもいいのだ。


     幕末、文久三年秋、京都――壬生浪士組(後の新選組)副長土方歳三は、ある男から苦しい胸の内を告げられる。それまで男色とは縁なく生きてきた歳三は相手を拒絶するが、その夜を境に、いずれ殺さねばならぬと思い決めていたその男の思わぬ姿を知る機会が重なって……

     野間みつねが1995年以来書き綴ってきた“私家版・土方歳三”とも言うべき作品。上巻では鳥羽伏見の戦いが終わるまでを収録(上下巻で完結)。男色絡みの展開も含まれているので、苦手な方は御遠慮を。

     残部1なので、テキレボ当日までに残っているかは不明(汗)。代行等、対応出来なかった場合は御免なさい(汗)。

     === 以下抜粋 ===

     小雪が舞っている。
     壬生の共同墓地に足を入れた歳三は、白い息をついて灰色の空を見上げた。
     十一月も末――禁門の変の流れを受けての長州征伐を翌月に控え、恐らく幕府軍の一隊として出陣を命じられるであろう新選組内部にも出戦気分がみなぎっている。勿論、歳三もその空気の中に浸かっている。浸かっているどころか、戦時隊形を考えたり、軍中法度を起草したり、率先してその空気を作り出していると言ってもいい。
     空を仰ぐ睫毛に、白いものが乗った。
     歳三は目をしばたくと、またひとつ息をついて、首の角度を元に戻した。そして、右手の方へ少し歩き、立ち止まった。
     小さな墓石ぼせきが一基、そこにひっそりと在った。
     平山五郎との連名で築かれた、かつての筆頭局長芹沢鴨の墓である。
     誰が手向けたものか、線香の細い束が、ふと目を惹いた。かなり短くなっている。白く立ちのぼる煙筋を眺めながら、歳三は軽く首をかしげた。自分以外の隊士が此処へ来たのだろうか。この墓に、命日でも何でもないのに参りに来るような隊士がいるのだろうか。
    (総司……いや、違う。あいつは今日は、朝から道場に出て、隊士に稽古をつけていた。此処へ来てる暇なんて、ありゃしねえ。……なら、誰だ……)
     考えかけて、歳三は苦笑した。誰だって良いではないか。第一、隊士であるとは限らない。葬儀にも来ていた兄か、親戚か、とにかく身内の者が立ち寄ったのかもしれない。詮索しても始まらぬことを考えて、どうするのだ。
     歳三は墓石ぼせきを見下ろし、両手を合わせた。
     此処へこうしてひとりで訪れるのは、三度目になる。最初は勿論一周忌の夜に、次はあの伊東いとう甲子太郎かしたろうと対面した日の翌日に……二度目の時は、甲子太郎加入で胸にいだいたやり切れない思いを整理する為にひとりでふらりと外出し、そぞろ歩いている内に、何となく来てしまったのだ。だが、辿り着いてみて、歳三は、自分が最初から此処へ来ようとしていたようだ、と感じた。そして微苦笑した。奇妙に穏やかなものが心を浸していた。
    (……あん時に思ったんだ……何か、つまらねえ事があったら、あんたに愚痴をこぼしに来よう、ってな)
     生きている人間には言えないことも、墓石はかいし相手になら素直に言える気がしたのだ。
     が、今日は愚痴を言いに来たわけではない。
     誰とも知れぬ墓参者の残した香の香りが、閉ざした目の向こうで漂い、鼻先をかすめてゆく。
     彼自身は、線香の一本も花の一輪も携えてはこないし、石に水打ちをすることもない。自分にはこの人に手向けをする資格はない、と彼は思っていた。どういう理由があろうと、自分はこの人を闇討ちにしたのだ。泥酔した寝込みを複数人で襲うという卑劣な手段で亡き者にした挙句、いけしゃあしゃあと盛大な葬儀を営み、果ては長州の間者が暗殺者を手引きしたのだと犯人でっちあげまでやってのけ、隊内に潜り込んでいた間者達を粛清する口実として使ったのだ。この上に供え物などしては、盗っ人猛々しいという奴ではないか……
     暫く瞑目した後で、歳三は目を開き、手を下ろした。
    「……いくさに行くんだよ、芹沢さん」
     もう戻ってこれねえかもしれねえからな、と裡に呟く。
    「命があったら、また来るさ……じゃあな」
     墓地を出かけた所で足を止めて振り返ると、ひらひらと踊る小雪の向こうで、あの切ないまなざしが見つめているような気がした。勿論気のせいだとはわかっていたが、それでも歳三はそちらへ向けてかすかに笑みかけ、目礼を送った。

         ───「射干玉ぬばたま」より

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