仔猫ちゃんといっしょ
朝食のテーブルに並ぶのは、ドーナッツである。
2DKのマンション。朝の光を浴びながら、クラムゼン・サー・ロレングラムはそのワッカにかぶりついた。
「善太郎は、甘党だよね」
同居人・佐藤偲はホットチョコレートをマグカップに注ぎながら、ぼやいた。このぼやきも、朝食の席の習慣となっていた。
ドーナッツは、母星の菓子であるスートリに似ているのだと、クラムゼンはこれまた幾度となく繰り返した返答をした。
クラムゼンは今現在、母星であるところの偉大なるオゴーンを離れ、チキューで起居をしていた。理由はといえば、仕事、の一言につきる。
組織から与えられたこのマンションに居を落ち着けた時には一人きりだったのだが、それからささやかな紆余曲折を経て、同居人として佐藤偲という原住民が増え、それに付随して原住生物・タケコが加わった。タケコは猫であり、母星の愛玩動物・アオーンに似ている所が郷愁を慰めてくれる。
「今日の講義は何時限目から?」
砂糖をまぶしたドーナッツを眺めながら、偲が確認してくる。クラムゼンは大学生なのだ。それもこれも、現地に同化し職務をやりやすくする為の、苦心の策である。
「一時限目からだ」
偲は時計を見上げる。
「そろそろ行ったら?」
「うむ。今日は午前中で全ての講義が終了する。昼には帰宅するぞ」
「あっそう」
ドーナツに口をつけることなく、偲は食器を片付けはじめた。偲は低血圧らしいのだ。したがって、朝は食欲が無いのだと……いつも言っている。
「ところでさぁ、今月の生活費、そろそろ支給されるんじゃないの?」
台所で立ち働く背中に言われ、クラムゼンはカレンダーを見た。今日は確かに、給料日だ。
ならば早く出かけてしまわねばと、洗面所に飛び込み縺れ合った長い髪にあわててブラシを当てた時、である。
玄関のチャイムが鳴った。
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