魔法のベッド
僕は煉瓦の家の庭に立つ一本の大きな木だった。何年も何十年も、その家の人たちと一緒に過ごして、とても幸せだった。
ある夜、僕は雷に打たれてしまった。それはそれは大きくて強い雷で、僕は裂けて倒れてしまったのだった。
命のともしびの消えていく僕を、煉瓦の家の人たちは哀しげに見下ろしていた。薪にするしかないねと、そう相談している。
そこへ、遠くの国から用事で村を訪れていた男がやってきた。命のともしびの消えていく僕をじっと見て、別れがたいんだねと、声の無い言葉で語りかけてきた。
男は魔法使いだったのだ。魔法が使えるとわかると皆に怖がられるので秘密にしていたから、人々は気づいていなかった。けれど、僕にはわかった。
魔法使いは僕に、任せておけと請け負った。僕を元通りにはできないけれど、煉瓦の家の人たちともっと一緒に過ごせるようにしてあげよう。こうやって通りかかったのも何かの運命だし、心を通じ合える魂と出会えるのは滅多にあるもんじゃない。
そして魔法使いは、煉瓦の家の人たちに、こんな素晴らしい木をただの薪にしてしまうのはもったいないですよと、話をつけてくれた。
僕は魔法使いの手で、家具になった。
子供たちが寝そべることのできる、丈夫なベッド。魔法使いの作った、魔法のベッドだった。
僕は、僕に寝そべる大切な人たちと決して別たれることがないという、魔法をかけられた。僕に寝そべっている限り、僕の大切な人は僕の魔法に護られるんだ。
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