ふぅ
お姫様は、ため息をつきました。
深い森の、泉のほとり。お姫様は一人きりで、座っていました。
銀色の長い髪に、薄紅色の絹のドレスを着ています。月の明かりに照らされて、お姫様はそれは美しく輝いていました。
森に住む妖精のリットは、木々の間を一人ぽっちで歩いていました。金色の瞳に涙をためて、とぼとぼと歩き……湖のほとりのお姫様に行き当たりました。
リットは、短い足をぴたりと止めて、お姫様を見つめます。
ふぅ
お姫様はもう一度ため息をついて……おやと、リットに気が付きました。そして、木の幹の陰に隠れるようにしていたリットに、声をかけます。
「何をしておる、お前。私に用があるのなら、こっちへ来い。用がないなら、私を気にせずに立ち去ればいい」
甘く可愛らしい声は、ちょっとつっけんどんでした。
「あんたに用があるわけじゃないんです……」
リットはなんとなくおどおどと、木の陰から出てきます。
「何、してるんですか?」
「ため息をついている」
お姫様は、またため息をつきました。
「生まれてこのかた、こんなに続けてため息をついたのは初めてだ」
「そりゃ、ここはそういう場所なんですから」
リットの言葉にお姫様は首を傾げます。
「この泉は、憂鬱の泉です。人間達の憂鬱が、この泉の底の方に一杯たまっているんですよ。だから、この泉の近くにいるだけで、なんとなく憂鬱な気持ちになってくるんですよ」
ううむ……と、お姫様は眉をしかめ
「不思議な泉だな。しかし、な。私が憂鬱なのは泉のせいではなく、私が今おかれた状況によるものだ」
きっぱりと、言ったのでした。そして、ふうっとため息をつきます。
「どうかしたんですか? あんた、どうしてこんな所にいるんですか?」
「話せば長いことながら……時間があるなら、ちょっと聞いていくか?」
こくりと頷いて、リットはお姫様の向かい側にちょんっと座りました。
それで、お姫様は話し出します。
「実は私は、結婚をすることになったのだ」
「……それが、憂鬱なんですか?」
「まあ、聞きなさい。私の国は戦いで負けてしまって、勝った国に沢山のお金を払わなければいけなくなった。けれど、父上はちょっと……お金が足りなくてな。代りに、私を嫁に出すことにしたのだ」
「なるほど」
と、リットは納得顔で頷きましたが……。お姫様は「ここはまだ、話の始まりだ」と言って続けます。
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