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【ハイファンタジー】憂鬱の泉

  • 有馬-31 (ローファンタジー)
  • ゆううつのいずみ
  • 瑞穂 檀
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 102ページ
  • 750円
  • 2020/10/31(土)発行
  • 読み切り。おとぎの森に迷い込んだお姫様のお話し。

    試し読み⤵

       ふぅ

    お姫様は、ため息をつきました。

     深い森の、泉のほとり。お姫様は一人きりで、座っていました。

    銀色の長い髪に、薄紅色の絹のドレスを着ています。月の明かりに照らされて、お姫様はそれは美しく輝いていました。

     森に住む妖精のリットは、木々の間を一人ぽっちで歩いていました。金色の瞳に涙をためて、とぼとぼと歩き……湖のほとりのお姫様に行き当たりました。

    リットは、短い足をぴたりと止めて、お姫様を見つめます。

     ふぅ

    お姫様はもう一度ため息をついて……おやと、リットに気が付きました。そして、木の幹の陰に隠れるようにしていたリットに、声をかけます。

    「何をしておる、お前。私に用があるのなら、こっちへ来い。用がないなら、私を気にせずに立ち去ればいい」

    甘く可愛らしい声は、ちょっとつっけんどんでした。

    「あんたに用があるわけじゃないんです……」

    リットはなんとなくおどおどと、木の陰から出てきます。

    「何、してるんですか?」

    「ため息をついている」

    お姫様は、またため息をつきました。

    「生まれてこのかた、こんなに続けてため息をついたのは初めてだ」

    「そりゃ、ここはそういう場所なんですから」

    リットの言葉にお姫様は首を傾げます。

    「この泉は、憂鬱の泉です。人間達の憂鬱が、この泉の底の方に一杯たまっているんですよ。だから、この泉の近くにいるだけで、なんとなく憂鬱な気持ちになってくるんですよ」

    ううむ……と、お姫様は眉をしかめ

    「不思議な泉だな。しかし、な。私が憂鬱なのは泉のせいではなく、私が今おかれた状況によるものだ」

    きっぱりと、言ったのでした。そして、ふうっとため息をつきます。

    「どうかしたんですか? あんた、どうしてこんな所にいるんですか?」

    「話せば長いことながら……時間があるなら、ちょっと聞いていくか?」

    こくりと頷いて、リットはお姫様の向かい側にちょんっと座りました。

    それで、お姫様は話し出します。

    「実は私は、結婚をすることになったのだ」

    「……それが、憂鬱なんですか?」

    「まあ、聞きなさい。私の国は戦いで負けてしまって、勝った国に沢山のお金を払わなければいけなくなった。けれど、父上はちょっと……お金が足りなくてな。代りに、私を嫁に出すことにしたのだ」

    「なるほど」

    と、リットは納得顔で頷きましたが……。お姫様は「ここはまだ、話の始まりだ」と言って続けます。


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