こちらのアイテムは2020/12/26(土)開催・Text-Revolutions Extra 2にて入手できます。
くわしくはText-Revolutions Extra 2公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

【ローファンタジー】【現代】ベンチの妖精

  • 有馬-31 (ローファンタジー)
  • べんちのようせい
  • 瑞穂 檀
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 116ページ
  • 650円
  • 2021/1/17(日)発行
  • 高校一年生のサチは、深夜の散歩に出かけた。公園で出会ったのは小さな女の子。その子は自分を妖精だという。
    学校生活で悩みながら、一方で小さな少女に心を砕く、少ししんみりした読み切り。

    試読み⤵

     小さな公園にベンチがある。カラフルで新しいベンチは、日当たりの良い砂場の脇やブランコの前。一番古くて色の褪せたベンチは、公園の端っこの寒々とした日陰に所在無げに佇んでいる。

     サチが小学校に上がる前は、公園の全部に陽が当たっていて、古いベンチもぽかぽかの陽気の中にあった。けれど今では、背後にマンションが建ってしまい、文字通り日陰の存在。冬の休日、新しいベンチは日差しの中で人々の憩いの場になっているのに、日陰のベンチは誰も座りたがらない。

     

     その日。サチは、真夜中にふらりと外に出た。

     一月の半ばである。真冬の深夜は、寒い。スウェットの上にジャージを着て、更にダウンジャケットを重ね着して。両手をポケットにつっこんで、家族に黙って玄関を出て。近くのコンビニに行くだけじゃ気分転換には足りないと思い、少し遠回りした。

     吐く息が白いなぁと、必要以上に大きく息を吐きながら歩く。そして、その小さな公園に辿りついた。

     集合住宅と隣り合わせで、東門は図書館の裏門と向かい合わせ。西門は二車線ある道路に面している。土日の午後に通りかかると、親子連れがちまちまと遊んでいるのだが、真夜中はさすがに人影が無い。

     子供の頃にはブランコや滑り台で遊んだけれど、高校生になってからは、何かの拍子に通りかかるだけ。門柱の間を通り抜けたのは、久々だった。

     ベンチが目に入った。古くて色あせたベンチ。

     サチは瞬きをする。

     ベンチに人影があったのだ。しかも、小さな女の子。

     公園の時計に目をやる。二時半。夜の二時半は子供が遊んでいい時間じゃない。

     女の子はベンチに座ってサチを見ていた。

     短めのデニムのスカートに、フリースのジャケットを着ている。黒いタイツとボアのついたショートブーツを履いているけれど、それでも寒そうな格好だ。

     サチは、ベンチに歩み寄る。

     女の子はベンチに座ったまま、にこにこしながらサチを見上げた。くっきりした瞳が可愛らしい。黒い髪は豊かで、華奢な背中を腰まで覆っていた。

    「何してんの?」

     尋ねるサチの声は、少し震えた。寒いのだ。歯茎が凍えそう。

     答える女の子の声は、涼やかで落ち着いていた。

    「座って、見ているの」

    「何を?」

    「色々なもの。今は、お姉さんを見ているの」

     なんだか屁理屈ぽいが、女の子の表情も声も、とても素直だった。


ログインしませんか?

「気になる!」ボタンをクリックすると気になるサークルを記録できます。
「気になる!」ボタンを使えるようにするにはログインしてください。

同じサークルのアイテムもどうぞ

【ローファンタジー】私の家【ローファンタジー】空の上にあるもの【ローファンタジー】雨の日トラップ【ローファンタジー】魔法のベッド【現代】虫【現代】【恋愛】消えてください【現代】【恋愛】丸井君【現代】闇で抱きしめて【現代】夏空【ローファンタジー】【BL】仔猫ちゃんといっしょ【ローファンタジー】【BL】仔猫ちゃんといっしょ2 結婚行進曲【ローファンタジー】【BL】仔猫ちゃんといっしょ3 決闘しましょ【ローファンタジー】【SF】太陽くん、ファーストコンタクトの巻【ハイファンタジー】憂鬱の泉【SF】ミルキーウェイでこんにちはの巻【BL】ボタン【ローファンタジー】【現代】ベンチの妖精

「気になる!」集計データをもとに表示しています。