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【2次創作】【ボクらの太陽DS】【BL】プル・ソウル・ローレライ

  • 登別-05 (2次創作)
  • ぷる・そうる・ろーれらい
  • 綴羅べに
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 264ページ
  • 2,000円
  • https://text-revolutions.com/…
  • 2020/10/11(日)発行
  • ◆デュマサバ現代パロディ。原作をご存じなくても楽しんでいただけます。
    ◆サマーホリデーの期間を海沿いの港町で過ごすことになった青年サバタだったが、滞在先の屋敷には「死因も未練も分からない」とうそぶく自称地縛霊が居着いていた。穏やかな休暇を取り戻すべく、サバタは成仏の手がかりを探し奔走する。やがて奇妙な夢と、幽霊屋敷の噂、そして300年前にまで遡る幸福で不自由な恋の末路へと行き着き……。Pixivで連載した長編に、前日譚と後日譚を書き下ろした冊子版。

    ◆試し読み◆
    「ねー、サバタ。夕飯できるまで結構かかりそうじゃない? だからさ、時間潰しに海行こうよ」
    「却下だ」
     的中。そんなことだろうと思った。
     間髪入れずに抗議のブーイングが上がった。階段を下りるカーミラはこちらを振り向きもしなかった。もう中等部も三年に上がるというのに、この三つ下の弟の自由奔放な癇癪は一向に落ち着く気配をみせないのである。
    「なんでさー! いいじゃん別にー! ボクすっごい楽しみにしてたんだからね海っ!」
    「それは知ってる。けど今日はもう駄目だ。あっという間に暗くなる。明日にしろ」
    「泳ぐわけじゃないんだから大丈夫だよ! 浜辺で海原眺めるぐらいはいいじゃんー」
    「駄目ったら駄目だ。ろくに海慣れしてない都会育ちのおれたちじゃ、何かあったときに対処できないだろ。サマーホリデーで浮かれて海難死亡事故なんざ、おれはともかくみっともなさすぎて笑えないぜ、アストラ家の次期当主」
     露骨に語尾をはっきり発音してやれば、ジャンゴは一転して黙り込んだ。いくらでも動く口を無理矢理縫い合わせて言葉を押し込めた、そんな苦しい顔をして。
     サバタだってこの手はあまり使いたくない。個人の意志を無視して、踏みにじって、覆しようのない枠組みに相手をはめる行為だ。せめて兄である自分だけは、そういう目で弟を見てやりたくはない。
     が、どれだけ嫌でも、何度も同じわがままをぶつけられていれば楽な解決策に流れていってしまうのも仕方のないこと。特に今回は両親がいない。サバタと、ジャンゴ、それからメイドであるカーミラのたった三人きりで、無事に二ヶ月間を過ごさなければならないのだから。
     矛盾する罪悪感が、サバタの胸中にも苦い心地を広げる。
     その視界に、ふわり、と。
     幻じみた真っ白い布地の裾が翻った。
    『実に賢明な判断だ、サバタ。ここの海は穏やかに見えて、その実平気で豹変する。《狼の尾》とは何も地形に限った話ではない』
     追って男の声が聞こえる。鼓膜の奥に繋がる脳まで甘くゆったりと響く、まるで一級品のコントラバスをつま弾いたような、稀な音色。
     最初に耳にしたときにはサバタもぞくりとした。若干腰も抜けた。それほど魅力的で、きっと百人耳にすれば百人が魅了されるであろう……けれど。
     今となってはため息の材料にしかならない。しかも嬉しくない方の。
     サバタが悟られないように息をついたところで、ジャンゴの俯いていた視線も上がった。
    「分かった、サバタの言うとおり明日にする。でも、絶対付き合ってよ。いい?」
    「もちろんだ。ひとりでふらふらさせるなって父さんから口酸っぱく言われてるしな」
    「それは……ほんと、いい加減にしてよって感じなんだけど。まあいいや。カーミラの手伝いはしていい?」
    「かまわない。行ってこい」
     笑って答えてやれば、ジャンゴはぱっと表情を明るくさせて階段を駆け下りていった。カーミラも屋敷を出たばかりだろうからすぐに追いつくだろう。わざわざついていってやる必要はない。
     サバタは軽く嘆息して、それから。
    「……で? 何の用?」
     渾身の迷惑ぶりを見せつつ振り返った。
     もちろん、男の姿があった。コントラバスの声音の主だ。
     百年単位の歴史を持つこの屋敷の様相に相応しい、古き良き貴族然とした立ち居振る舞い。ふんわりと撫でつけられたプラチナブロンドの下、これまで目にしたことのあるどんなガーネットよりも強く、深く、優美に輝く双眸が微笑んでいる。
     どこからどう見ても完璧な紳士だった。すれ違う人が例外なく必ず振り返るであろう、美貌の偉丈夫だ。
     ただしその全身は透けて、しかも宙に浮いていて。
     一目で上質と分かるワイシャツとベストをきっちりと着こなしているくせに、何故だが穿いているのはたっぷりと膨らむ純白のスカート。
     つまり、存在も容姿も、普通の人間ではなかった。
    『用も何も、オレの部屋の前で騒いでいるから様子を見に出てきただけだが?』
     男は微笑んだままで穏やかに言う。別に怒っているわけでも咎める気もなく、単に好奇心に突き動かされただけだと。
     嘘ではなかった。分かりたくもないがこの五日間でサバタは確信を抱く程度にこの男の性格を知ってしまっている。
    「それについては謝る。起こしてすまない。以後気をつけるから、是非ともあんたはお気に入りの書斎で静かに引きこもっていてほしい。あるいは他に行きたい場所があるなら今すぐにでも出てってくれ。おれはその門出を心から祝福しよう」
    『祝福、か……心にもないのだからやめておけ。《主神》なんていう集合無意識に裁かれたくはないだろう?』
     サバタは眉間にしわを寄せた。元々寄っていたから更に深く刻むことになった。
     要するに、遠回しに「罰が当たるぞ」と忠告しているのだ、この男は。自身の存在を世間でなんと称するのかを棚に上げて。
     これ以上は触れたくも関わりたくもない。本当に。できればそっとしておきたいし、向こうにもそっとしておいてほしい。
     けれどサバタはどうしてかこの男に対する反抗心を捨てきれない。見て見ぬ振りができない。きっと『視えて』しまったことを悟られた時点で、サバタと男は奇妙な縁で繋がってしまった。
     反発と、胡散臭さと。胸の辺りで渦を巻く不愉快な感情を込め、サバタは苦々しい言葉で男を呼ばわる。
    「幽霊のくせに白々しい……そっちの方がよっぽど罰当たりだと思うぜ、スカート野郎」
     けれど男はどこ吹く風。空中で脚を組む動きをみせて、立てた膝の辺りに頬杖をつく。本当にそういう体勢をとっているのかどうかは謎だ。何せ下半身を覆い尽くす白布はとても大きく、爪先のほんの先端すら見えやしない。
    『《オレ》が存在し、オマエとの会話を成立させている時点で、むしろその神とやらこそ虚偽にまみれた大罪人だと思うがな。霊魂なんぞ非科学的だと断じた現代の学者連中の前に出てやろうか? 端から順に泡を吹いて卒倒するぞ』
    「やれるもんならさっさとやってほしいぐらいだよ、おれは。そしてそのまま帰ってこなくていい」
     一切繕わず素直に言う。それでも男はにんまり笑ったまま。
     自縛霊を自称するわりには怨嗟なんてかけらも抱いてなさそうな明るさで。
     そのくせどこか意識の端に引っかかる一抹の寂しさを目尻に滲ませながら。
    『残念ながら、その期待には応えられない。応えられたとしても興味がない。だったらオマエに取り憑いていた方が面白そうだ』
     ふゆり。サバタの目と鼻の先に降りてきた美貌が笑む。
     サバタが面食らう暇もなく、男は書斎の中へと戻っていった。慣れた調子で床上数センチを滑り、窓を背にした机の脇を通って、その窓枠に寄りかかる。
     射し込む斜陽は当然ながら男を透過し、家具の影だけを夕方の室内に落とした。
     男は確かにそこにいる。サバタの目には視えている。決して無視できない、宝石じみた存在感を放ちながら。
     だからこそ男が存在しないていで回る世界の常識がことさら不気味に浮かび上がるようで、サバタは三度顔をしかめた。


     カレッジのサマーホリデー。やってきたのは、都会から遠く離れた海沿いの岬町。
     家の所有する別荘で、サバタはたったひとりの弟と、誰より信頼できるメイドと、静かに慎ましく夏を過ごす……そのはずだった。

     自らを《屋敷の自縛霊》などと名乗る、スカートを穿いた男の幽霊――デュマさえいなければ。

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