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【2次創作】【ゼルダの伝説】メモリア

  • 登別-05 (2次創作)
  • めもりあ
  • 綴羅べに
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 282ページ
  • 1,000円
  • https://text-revolutions.com/…
  • 2019/9/15(日)発行
  • ◆個人誌・アンソロ寄稿作品の再録集。時オカ・ムジュラでムジュラ多め。カフェアン(子供捏造),ミカルル,ダーゼル,タルミナの墓守≒ゲルド考察など。

    ◆試し読み◆
     事の発端は、クロックタウンで年に一度だけ行われる大行事《刻のカーニバル》への出演を終えて、それまで張り詰めっぱなしだった緊張をほぐそうと自由にセッションをしていたときのことだった。
     ゾーラバンドきっての歌姫であるルルの、深い海底にまで柔らかく響いてゆくような伸びのある声を遮るようにして、何かが砕けて弾け飛ぶ音とノイズが走る。
     それまで溢れんばかりの音色を閉じ込めていたゾーラホールが一変、水を打ったように静まり返った。メンバーたちが演奏の手を止めたせいだ。
    「……一体何だ、今の音は」
    《ダル・ブルー》のリーダー・エバンが怪訝そうに眉をひそめる。するとその斜め前に立っているギタリストの背中から「あ、あぁあ…………」という情けない悲鳴が上がった。
     四人分の視線が一斉にそちらに向けられる。が、彼は自身の手元を見つめたまま微動だにしない。
    「ん? おいどーしたミカ……ウ……」
     見かねたジャパスが彼に歩み寄って肩を叩こうとしたが、かけた声は不自然にしぼんでしまった。軽く上げた右手も所在を失くして固まっている。
    「なんだ、何事だ?」
    「な、何か、あったの……?」
    「ミカウ? ジャパス?」
     ジャパスに続くようにして、他のメンバーたちもミカウの元へと集まってくる。そして誰もが同じように事情を理解して息を呑んだ。
     切れて跳ね上がった弦と、見事なまでにぼっきりと折れたネック。
     素材から造形からこだわり抜き、自分の手で丹精込めて製作して、ライブの度にスポットライトを浴びて輝いていた彼の代名詞とも言えるギターが、今は変わり果てた無残な姿で主人の腕に抱かれていた。
    「う、う――嘘だろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!?」
     ……後ほど広まった噂だが、その時の絶叫はゾーラホールを突き抜けて、沖のトンガリ岩に住むタツノオトシゴカップルの耳に届くほど、グレートベイ全域にまで轟いていたという。

     海に住むものたちが活気づく、初夏某日。
     ミカウの愛用していたギターが壊れた。


    「……あー、こりゃダメだな。もう手の施しようがないぜぃ」
     検分を終えたジャパスが、折れたミカウのギターを静かに床に置いて呟いた。
     途端、それまで固唾を飲んで様子を見守っていたミカウは必死の形相でジャパスの腕にしがみつく。
    「おいおいおいおい、そんなことないだろ? まだどうにかなるだろ? こいつに限ってここで終わりとかそんなバカなことあるはずが――」
    「だぁああっうるっせぇな! 気持ちは分かるがちょっとは落ち着け! あとくっつくな暑苦しい!」
     珍しく声を荒げたジャパスにヒトデの扱いよろしくべりっと引っぺがされてしまう。支えを失くしたミカウは、干からびた魚のように力無くしゃがみ込んだ。すかさずルルもその隣に膝をついて彼の両肩に手を置く。
    「ジャパス……やっぱり無理そうなの?」
    「ああ。なんせネックの部分が砕けちまってんだ。綺麗に折れたんだったらまだ接げただろうが、これじゃくっつけても隙間ができてまたすぐに折れるぜぃ」
    「そう……」
    「だいたい、カスタマイズした本人に直しようがないんだったら、たとえオレが逆立ちして頑張ったとしてもどうにかなるもんじゃねえよ。そうだろ、ミカウ?」
    「……」
     ミカウは返事ができなかった。ジャパスの言うとおりだった。
     もちろん最初から全てを相手に丸投げしたわけではない。あの騒ぎのあとすぐにセッションは中断され、ミカウは急いで自室から整備道具一式を引っ張り出すとどうにか修復できないかとひとり作業に没頭していた。が、小一時間ほどが経過したところで突然手に持っていた工具を投げ出し、生気の失せた瞳で呆然と天井を眺めだしたのだ。
     どうにも居心地の悪いなかで手持ち無沙汰に修理の様子を窺っていた他のメンバーたちも、それでミカウの無念を察した。リーダーの一声で正式に解散、エバンとディジョの二人は自室へと戻り、残ったジャパスも撤収しようとしたところで「試しにもう一度見てあげてくれないか」とルルに頼まれ、こうして三人まとめてベーシストの部屋に詰めているのである。
     ジャパスとしては折れ具合を見た瞬間にもう駄目だと直感していたのだが、淑やかな印象とは裏腹な彼女の頑固さに押し通されてしまった次第だ。口論と演技を天秤に掛けて楽な方を選んだともいえる。
    「ミカウ」
     ジャパスに名を呼ばれて、うなだれていたミカウは顔を上げた。
    「……なんだよ」
    「そのギター、付き合い始めてどのぐらい経った?」
     言われて視線を床の上に置かれた相棒に向ける。
     このグレートベイで当時最も凶暴だと恐れられていたスカルギョの親玉。そいつを自力で捕獲して加工した、この世に一本しか存在しない楽器。
     忘れるわけもなければ、考えるまでもない。
     自分がギタリストとして歩んできた年月と《彼》の人生はイコールで結ばれているのだから。
    「十年だ……ちょうどぴったり十年前に、オレが作った」
     自分で口にしておきながら内心で驚いた。自覚はあったものの、やはり自分の中ではまだ昨日のことのようで、それだけ傍にあることが当たり前になっていたのだと実感する。
     ミカウの隣でルルも「そうね」と小さく呟いた。
    「わたしも覚えてるわ。母さんに連れられて先代《ダル・ブルー》の公演を見に行った次の日から、ミカウったらずーっと海に潜ってて。毎日生傷作って帰ってくるから、わたし心配してたのよ?」
    「えっ、そうだったの?」
     全く覚えがなくてそう返したら、彼女はぷくっと頬を膨らませた。
    「そうよ! 何か危ないことでもしてるんじゃないかってもう気が気じゃなくて……どうしたのか訊いても答えてくれないし!」
     当時のことを思い出したのか、ルルは声に怒気を漲らせてそっぽを向いてしまった。
     しかし怒りを向けられている当人には何がなんだか分からない。とりあえず、ルルの機嫌を損ねたままにすることだけは回避しなければと思い、なるべく申し訳なさそうに謝っておいた。
     それからもう一度、愛用のギターに目をやる。
    「けど、十年……そっか、もう十年も、オマエは……」
     無意識のうちに滑り落ちた言葉に返事はない。
     代わりにジャパスが口を開いた。
    「そんだけ長いこと大事にされてりゃそいつも本望だろうよ。だからよ、ここらで休ませてやらねぇか?」
    「…………」
     相手の言っていることは理解できる。けれど納得がいくかといえばそうにもゆかない。
     楽器の寿命なんて明確に定まっているわけではない。どんなに高価な材料を使っている一級品だって手入れを怠れば数日で錆びるし、逆にありふれた素材で作られていてもきちんとメンテナンスをしてやれば長く使えて、音だってブランド物を超えることがある。要は持ち主がどれだけ愛情を注げるかにかかっているのだ。
     ミカウの頭の中で様々な言葉が飛び交った。ジャパスの言うとおりそのぐらいの年月使えば御の字なのか。本当に十年程度が楽器の寿命なのか。果ては、こいつが壊れたのは自分のメンテナンスが不十分だったからなのではないか、とか、いやオレはこれまでにただの一度も手を抜いたことなんてない、とか。
     そうやって急激に脳が働き始めたせいかもしれない。視界がくらりと揺らめいて、ミカウはその場に手をついた。
    「ミカウ、大丈夫!?」
    「……ああ」
     ルルの声に上の空で、返事なのか呻きなのかよく分からない音を返す。和らいでいた喪失感が蘇ってきてどこにも力が入らなかった。
    「オマエに非はねぇ。ここまで散々言っておいて何を今更と思うかもしれねぇが、バンド入った時からセッション組んでるオレが言うんだ。間違いねぇぜぃ、ミカウ。オマエはソイツをきちんと愛してた。毎日飽きるぐらいチューニングして、磨いてやってただろうが。だから自分を責めるな」
     本っ当に今更なフォローだな。
     そんな軽口さえ叩けずに、ミカウはじっと、視界の端に折れたギターを収めて呆然としていた。
     ようやく彼が自力で部屋へ戻れるようになったのは、それから三十分ほどもあとのことである。

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