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【2次創作】【ボクらの太陽】"D"の追憶 2.人とヒトの狭間で

  • 登別-05 (2次創作)
  • でぃーのついおく 2.ひととひとのはざまで
  • 綴羅べに
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 144ページ
  • 1,000円
  • https://text-revolutions.com/…
  • 2019/12/29(日)発行
  • ◆「公爵デュマはかつて太陽少年だった」という仮定のもと、 シンボクBAD ENDからDS本編開始までの空白を独自の考察と妄想で埋めてゆくシリーズ。【デュマ】の名を得た死に損ないの元に、人間の教師がやってくる第2巻。
    ◆ボクタイ布教コピー本付き(予定)

    ◆試し読み◆
     最後の絶叫がびたりと止まる。あまりにも不自然に、唐突にばねの切れたゼンマイのように。
     グールよりもよっぽど不気味な死に様を晒した女から、一羽の蝙蝠が飛び立った。
     戻ってきたそれが私と同化する。統合された感覚は「相変わらず不味い血だ」と文句を垂れた。仕方あるまい。太陽の墜ちたこの時代に健康な肉体と良質な血液を維持できる人間などそうそうおらん。
     これからは全てそうなってゆくのだ。大地も、人も。皆やせ細ってそのうち棒きれと化すまで。
     主に抵抗する男どもを引き裂いた左手から返り血が滴る。舐める気も起きない。
     そのままに、最後の犠牲者へと歩み寄る。これを加えて三体ほど、王ご所望の素体とやらを見繕った。首筋に小さな穴が二つ開いているくらいは許されるだろう。むしろこれ以上に傷を付けない方法は思いつかない。
     若い女が二人と、少年が一人。並べて寝かせ、さあ転移の魔法陣を敷こうとした。
     そのときだった。
    「……ほう?」
     まさかまだ人間の気配が残っているとは。
     案外、私も本調子とは言えないらしい。
    「どこへ隠れていたのか知らんが、よくもまあ今の今まで我が目を欺き通したものだな。さて、望みはなんだ? 仇討ちか?」
     振り返った先には男が立っている。まだ若い。先ほど食い荒らしたレジスタンスの連中とそう変わらないだろう。ただ、武装はしていない。
     男は真っ黒な髪の奥で、同じく黒い瞳をしっかりと開いていた。
     少なからず興味を惹かれる。何故なら本来こびりつき、表出してしかるべき恐怖を、なんらかの決意で押さえ込んでいるようだったからだ。
     薄い既視感。太陽仔の末裔たちが幾度となく私に向けてきた眼差しに似ている。しかしあれほどの熱には至っていない。
     むしろ色濃く滲むのは……抗いようのない諦念だ。
    「あ、あなたが……ヴァンパイアロード、ですか」
     上擦りながらそんなことを聞いてくる。
     私はつい嗤ってしまった。今の今まで繰り広げられていた惨状を見ていなかったわけでもあるまいに。
    「愚問だな。しかし、いかにも。夜の一族ヴァンパイアの君主《大地を濡らす血の伯爵》とは私のことよ」
     この口上を述べるのもいつぶりだろう。取るに足らない人間どもには告げる暇も意味もなかった。となればやはり、あの太陽仔の親子が最後だったわけだ。
     男が息をのんだ。分かっていても呑まれるのが恐怖というもの。悲鳴を上げなかっただけ褒めてやろう。
     さあ、次に飛び出してくるのはナイフか、鉛玉か。
     腕組みしつつ様子を窺う。
    「伯爵、様……お願いがあります」
     そして……男の行動は、そのどちらもとらなかった。
     諦めきった黒い瞳で。
    「僕を、あなたの食糧にしてください」
     たったそれだけが、この世に遺された希望なのだと。
    「…………なに?」
     あまりにも無垢な相手の顔に、私は呆然と、そんな音を返すしかなかった。
     
     
     (~中略~)
     
     
     夜、部屋で待っていたオレのところに、父上はきちんとやってきた。
     ただし、グールでもマミーでもない、知らないもう一人を連れて。
    「……だれ?」
     開口一番そう問いかける。教えて欲しい範囲の要点とか、一日何をしていたのかとか、ここまでわくわしながら用意しておいた矢継ぎ早の言葉もすっかり忘れた。それほどまでに惹かれたのだ。
     だって、一緒に入ってきた彼の肌が、とてもあたたかい色をしていたから。
    「明日からお前の世話役を務める、人間の男だ」
     父上の、わざと強調するような物言いが、なおさら頭に突き刺さる。
     人間。
     これが。
     ……ああ、確かにそうだ。そうだった。
     心の奥、胸の奥が思い出す。覚えている。
     けれどオレが理解する前に、また煙のように消えてしまった。
    「本当に……子供なんですね」
     向こうもなんだか驚いているらしい。黒い瞳をまたたかせて。
     父上が腕を組んで頷いた。
    「見た目も中身もまさしく子供だ。ヴァンパイアとしての経歴もな。こうなってまだ半月ほどしか経っていない。名をデュマという」
     男がゆっくりと歩み寄ってくる。少しの怯え、畏怖、そしてそれを上回る、好奇心混じりの使命感を帯びて。
     オレもつい身構えてしまった。それは防衛というより、男と同じ、怯えだった。
     自分のこの容姿が相手を怖がらせてしまうんじゃないかって、怖くて。
     なんでこんなことを思うんだろう。助けを求めて父上に視線を飛ばす。
     見慣れた血錆の瞳と合う。でも何も言ってこない。
     ……なら、大丈夫なんだろうか。
     戸惑ううちに、男が目の前に膝をついた。ベッドの縁に腰掛けるオレを下から見上げ、やがて柔らかく微笑みを浮かべる。
    「初めまして、デュマ様。僕はリビアと申します。伯爵様に命を拾われ、貴方のお世話を仰せつかりました。……なにぶんヴァンパイアの生徒は初めて持つので、至らぬ点も多いとは思いますが、どうぞ、よろしくお願いいたします」
     その言葉に嘘はない。裏もない。自分の感覚が告げる。
     せいと、と耳慣れない単語を反芻したら、男の向こうから「そうだ」と肯定が返ってきた。
    「その男は教師だ。分かるか? 文字の成り立ちや、世界の文化、計算の仕方などを教える職業に従事している。お前がよく私に問うてくる内容だな。これからは其奴(そやつ)に師事するといい。そのための世話役だ」
    「だ、そうです」
     男も頷く。ちょっと困ったような、いまいち自信のなさそうな顔で。
    「日課の礼儀作法は今まで通り私が指導する。しかしこれからは仕事も増えそうなのでな。お前につきっきりではいられないというわけだ」
    「仕事……そう、そうだよそれ。せっかくだから訊こうと思っていたんだ。父上、今日どこに行ってたんだ?」
    「……貴様、人の話を聞いていたのか」
     どうしてそこで頭を抱えるのだろう。おかしなことを言ったつもりはないのに。
    「お前にはまだ当分早い話だ。しっかりと教養をつけてからでなければ理解も共感も、納得すらできんだろうよ」
    「そうやってまたはぐらかす……けち」
     ――一瞬、室内の空気の流れが完全に止まった。
     男の表情も凍りついた。オレはもう慣れているけれど、これは確かに背筋がぞっとする。
     父上は自分に都合の悪い話題を出されるといつもこうやって氷点下になるのだ。でも、不思議と叱りつけられるまでには至らない。
     今日もゆっくり時間をかけて、重いため息が吐き出された。こうやって下がった温度は元に戻る。父上は感情のコントロールがとてもうまい。
    「……なんでもかんでも答えてほしくば、まずはその男に勝るとも劣らぬ知識を身につけろ。其奴はなんでも知っているぞ。貴様のスッカラカンな頭なぞ比べものにもならん」
    「えっ」
     なんでも、知っている。
     それはオレにとって宝石みたいな言葉だ。
     改めて男と目を合わせる。まだ気持ち青ざめたままの彼に、こちらも身を乗り出して顔を寄せた。
    「オマエ、本当か? なんでも知っているのか?」
    「へっ? あ、うーん……なんでも、は、どうでしょう……そう言われるとあんまり自信はないんですが。範囲が広すぎて」
    「じゃあ、この本の中身は?」
     と言って突きつけたのは、ここのところ毎日肌身離さず持ち歩いている分厚くて重い書物だ。館の書庫に収蔵されていたもので、動物のことやら建物のことやら、ともかくなんでも書いてある。時には枕の代わりにもなる。硬いけど。
     男が「あ」と声を上げた。
    「懐かしいなぁ。それ、僕も子供の頃によく読んでいましたよ。気づいたら背表紙が剥がれちゃってて。もう随分前に燃えてしまいましたが、よく覚えています」
    「この中に書いてあること、分かるのか」
    「はい、分かります。他の文献もかき集めて補足していたぐらいなので、その百科事典に関してならばお任せください」
    「本当か?」
    「本当です」
     頷く微笑みにはやはり嘘も裏もない。確かな自信に満ちている。
     オレはその瞳をしばし見つめた。そうすれば少しだけ、相手のことが分かる。言葉にしづらい感覚的なものだけれど、大事な手がかりだ。
     黒い瞳もオレをじっと見返した。吸い込まれているような目つきだった。でもオレも、たぶん同じように吸い込まれてる。夜闇よりなお黒く、夜風ほどは冷たくない、その漆黒。
     答えを決めた。
    「分かった。オマエを信じる。よろしく、リビア」
     本を右腕で抱え直し、左手を差し出す。
     初めて触れた人間の肌はとても熱かった。
     びっくりしたけれど、引っ込めずになんとか我慢した。彼もまた、こちらの冷たさに肩を震わせていたようだから。

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