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【2次創作】【ボクらの太陽】BLACK BOX〈Yellow〉

  • 登別-05 (2次創作)
  • ぶらっくぼっくすいえろー
  • 綴羅べに
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 88ページ
  • 500円
  • https://text-revolutions.com/…
  • 2020/9/20(日)発行
  • ◆2015年秋から書いていた作品のまとめ本。〈Yellow〉はGBA作品のみ収録。ジャンリタ,サバカミ,サバザジ,創作ジャンゴ要素有。
    ◆ジャン♀リタ,サバ♀カミのそれぞれ独立した1篇/伯リンの好敵手以上恋愛未満な1篇を収録したペーパー2種がおまけで付きます。


    ◆試し読み◆
    【靴箱】

     ……あ。
     ぼくは自分のブーツを持ったまま、靴箱の前で立ち尽くした。どうしたもんか。
    「ん、帰ったのかジャンゴ」
     廊下の向こうからサバタが顔を出す。ぼくは兄をじっとり見やった。
    「……なんだ、その目は」
    「サバタ、ブーツが邪魔」
    「は?」
    「もっとちゃんと言うと、ブーツのトゲが邪魔」
     ぺたぺた音を立ててこっちにやってくるサバタ。靴箱を覗き込んで「あぁ」と頷く。
    「我慢してくれ」
    「やだよ!?」
     なんでぼくだけ!? っていうかここ一応ぼくの家なんだけど!
    「せめて外しなよ! どうせ後付けなんでしょ? 初めて会った時は無かったじゃん」
    「いやだ。というか、それこそ置く場所ないだろう。危ないぞ」
    「じゃあぼくのブーツだけそこらに置いとけっていうの?」
    「……詰めて入れればなんとかならないか?」
    「な・ら・な・い! 絶対刺さって穴が開く!」
     そんな問答を繰り返して十五分。
     結局、サバタがトゲを外すのをしぶしぶ了承したことで靴箱騒動は落ち着いた。
     リビングに戻りながら、ぼくは密かに抱いていた疑問を兄にぶつけた。
    「ねえ、なんであんなの付けてるの?」
     すると返ってきた言葉はあんまりにも可愛くないもので。
    「前にプラントのニードルを脚に受けたことがあってな。抜くヒマもなかったからそのまま戦っていたんだが、この蹴りが存外グールによく効くんだ。それで付けた」
    「…………」
     あれ、どういう相槌打てば正解だったのかな。


    【二人分の噛み痕】

     そっと、音を立てないように扉を開いてみた。
     細い光の筋が床に落ちる程度の間隔だ。ジャンゴは、そんな開いているのかどうかも分からない小さな隙間から部屋の様子を盗み見る。
     ちょうど見える先にベッドが置いてあって、白い毛布が丸く盛り上がっていた。更に注意深く観察すると、それは規則的な上下運動を繰り返している。兄が寝ているのだ。
     …………やっぱり戻ろう。
     そう思ってジャンゴは踵を返そうとした。しかしそれより早く毛布の塊が声を発した。
    「ジャンゴ。いるんだろう」
     なんで分かったんだよ。スニーキングスキルならこっちだって負けてないっていうのに。
     扉を閉めようとした姿勢そのままでジャンゴはしばし固まる。どうしよう。聞こえなかったフリを貫くか。でも目が覚めてる以上、どうしたって兄には気づかれる。
    「おいで」
     なんて、普段と違う口調で呼んだりしちゃってさ。
     サバタは、ずるい。ずるいよ。
     何も見ていないようで全部お見通しで、しかも、どんな言葉をかければ相手が素直になるのかよく知っている。
     ほんと、母さんにそっくり。
    「……分かったよ」
     ジャンゴはため息ののち、観念して扉をいっぱいに開いた。


     気づかれないとでも思っていたのか。
     立ち去ろうとするジャンゴに呆れつつ、サバタは自分から声をかけて弟を引き止めた。
     今はこのサン・ミゲルで人並みの生活を営んでいるとはいえ、こちとら元はクイーンの尖兵だ。少しでも気配を感じれば嫌でも目が覚める。
     毛布を除けて起き上がれば、ジャンゴがとぼとぼ部屋に入ってくるところだった。後ろめたそうに視線を伏せたまま、叱られた子供よろしくベッドの縁に腰掛ける。
     窓向こうの空は黒一色に染められて、いつも浮いているはずの真円すら見当たらない。こんな夜だ、理由はなんとなく分かっていた。
    「こっちを向け、ジャンゴ」
     あぐらをかき、自分の脚に頬杖をついて弟の顔を覗き込む。反対側に寄る眼球。逃がすものかと腕を伸ばし、顎をつかんで無理やり目を合わせる。
     気まずく瞬く赤い光。
     やっぱりな。
    「ひ、ひゃば……ふぁにゃひへっ」
    「断る」
     ぐぐぐ、と右手にかかる反発力。ジャンゴの頬が歪んでけっこう面白いことになっている。ただここで笑ったら今度こそ力ずくで逃走しかねないので堪えた。
    「だいたい、自分からこっちに来た時点で負けてるんだ。観念しろ」
    「ううぅ……」
     呼んだのはサバタじゃないか。
     とかなんとか呟くのが聞こえたが、責任転嫁も甚だしい。先に踏み込んできたのはお前の方だろうに。
     まあこれ以上は言葉にしたところで堂々巡りをするだけだ。サバタはジャンゴの顎から手を離すと、無言で服の袖を捲った。
     途端、変色した瞳がぎらついたのを見逃さない。
    「ほら」
     人より白い肌をジャンゴの口元に突き出す。が、相手は視線を泳がせるだけで咬みつこうとしない。やめておけ、そんなやせ我慢。どうせもう限界のくせに。
    「ジャンゴ」
    「……う、いや」
    「いつまでもトマトジュースでどうにかなると考えているなら大間違いだぞ。本当に狂いたくないんだったら、飲め」
     きっと、その場しのぎよりもそっちの方が辛い思いをする。
     これは逃げじゃない。自分を見失わないために必要な行為だ。じっと瞳を合わせ、言外にそう告げる。
     するとようやく、ジャンゴはサバタの腕を取った。
    「ごめん、サバタ」
    「謝ると余計に後ろめたくなるからやめておけ。……用意できるのがダークマター混じりの血だけで悪いがな」
    「そんな……そんなことないよ。他の人のだったら絶対嫌だけど、相手がサバタだもん。全然平気」
    「……そうか」
     ありがとう。
     前向きな断りとともに突き破られる皮膚の感触。サバタはどう言葉を返したものか困ってしまい、なんともなしに天井の隅を見つめた。
     奪われる血液に比例して意識がふわふわ浮いてゆく。眩む脳裏に蘇ったのは、最期のその瞬間まで自分の隣に寄り添い続けた赤いワンピースの魔女だった。
     そういえばいつだったか、彼女とも全く同じ会話を交わしたっけ。
     お前も、カーミラも、危なっかしいぐらいに優しすぎて愛おしい。

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