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【2次創作】【ボクらの太陽DS】【BL】亡霊公爵と幽霊剣士【R18】

  • 登別-05 (2次創作)
  • ぼうれいこうしゃくとゆうれいけんし
  • 綴羅べに
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 342ページ
  • 1,000円
  • https://text-revolutions.com/…
  • 2019/9/1(日)発行
  • ◆DSエピローグ後に利害関係からくっついちゃう公爵と剣士の、妄想甚だしい連作式長編小説・前篇巻。サバタの執着が健全から不健全へ傾く過程。 デュマ≒GBAジャンゴ,モブサバ強姦描写有。

    ◆試し読み◆
    【ワンダリング・バラッド】
     憎んで(生きて)、戦って(生きて)――辿り着いた先には、何もなかった。


     その夜は妖しい朧月が浮かんでいた。
     天候は曇り。とはいっても分厚い雲が空全体を覆っているわけではなく、無理矢理引っ張って伸ばした綿のような霞が乱雑に敷かれている。右側が少し欠けた月に掛かる霞雲の様子は、まるで月そのものが幻なのではないかと、見る者を錯覚させようとする。
     サバタは窓辺に寄りかかってそれを眺めていた。柄にもなく、本当に煙と消えてしまいそうに思って目が離せなかったのだ。
     もちろんそんなことはなく、風に乗って雲が流れれば月はまた姿を現す。夜の街を照らす光は普段よりも淡いだろうか。こういう晩は特にアンデッドの動きが活発になるから、いつもは見逃してしまうような路地の奥まで念入りに巡回する必要がありそうだ。
    「どうしたサバタ。行かないのか?」
     にゃおん、とこちらを呼ぶ鳴き声に、視線を月から部屋の中へと移す。先に扉へ向かおうとしていたネロの丸い目と視線がかち合う。
    「……いや、悪い。少し考え事をしていた」
    「考え事? オマエ、最近そういうの多いぞ。あんまり頭使いすぎると肝心なときにショートしちまうぜ。気をつけろよ」
     脇を通り過ぎざまにかけられた言葉には軽く手をあげて返事の代わりとした。言われなくとも戦闘中は目の前の敵を斬ることしか考えない。
     ネロもそれを分かっているから、軽いため息だけを落として、部屋を出てゆくサバタの背中を追いかけた。


     ギルドがクリアカン新市街に突入し、ヴァンパイアの支配から市民を解放したのが半年前。
     これまでにも幾度となく反抗を繰り返してきたギルドではあったが、そのたびに公爵デュマ率いる闇の一族に制圧され、規模の縮小を余儀なくされていた。そうした過去を鑑みてか、今度の解放作戦に対する人々の期待値は実のところそこまで高くなかったらしい。賛同者と諦観者の比率がちょうど半々といったところ。各地の酒場で情報を仕入れている《共犯者》アリスから聞いた。
     それがどうして今回に限って大成功を収め、しかも突如として天空に現れた謎の球体がヴァンパイアの本拠地たる暗黒城オーギュストを押し潰すまでに至ったのか。あの大怪球の正体と、ヴァンパイアを影から支援していた銀河宇宙の意思、そしてそれらにたった二人きりで挑んだ馬鹿な命知らずがいたことなど知るよしもない人々がしばらく間その話題で持ちきりだったことも、サバタは情報屋(アリス)経由で耳にした。
     だから早々にギルドを出た。赤の他人の野次馬に巻き込まれてやるほど、おれはお人好しではない。好奇の眼差しで投げかけられるだろう質問の数々にも律儀に答えてやる義理はない。そもそも彼らが望んでいるような英雄像なんてこれっぽっちも持ち合わせていないのだ。
     おれは結局のところ、エレンを殺したヴァンパイアへ復讐するためだけに死の淵から蘇り、不死者すら恐れて手を出そうとしなかった闇の遺産を振りかざして戦ってきた。ただ、それだけだった。他には何もない、本当に。……なかったはずだった。
     
     
    【ファントムオペラ】
     夢だと思いたかった。
     これは何かの間違いだ。悪い夢だ。幻覚なのだ。
     でなければどうして自分が憎い仇と深く口づけなければならないのか。
     しかもそこに――悶えるような熱を覚えなければならないのか。
     嫌悪は確かに存在した。復讐の対象であるとかそういうこと以前に相手は同性だ。【サルタナ】にそういう趣味があった覚えはない。サバタに関してはもちろんない。大事な女への愛だってついこの間思い出したばかりなのだ。嫌がらない方がおかしい。
     だというのに、どうして。
     感じたはずの不快感はすっかりと溶け落ちていて、代わりに妙な熱さが体の奥からじんわりと広がってゆく。上顎をなぞられると腰に響いた。髪に埋もれた指先が耳の裏辺りを撫でる。その感触と下腹部の神経が繋がって背筋がわななく。
     自分の体が示す反応に、心はまだ信じられないとかろうじて拒絶の色を見せている。その矛盾がさらに自分を追いつめることになり、サバタの意識は混迷を極めた。
     ずいぶんと長い時間、口内を蹂躙されたような気がする。唇がふやけて鈍くなってきた頃になって、ようやくデュマは口づけをやめた。離れてゆく舌にはくっきりと糸が繋がっている。
    「……どうだ? 悪くないと思わないか」
     銀糸を舐めて切ったデュマが微笑んで言う。あまりにも優しすぎるその態度に、サバタの理性は端から崩れ始めていた。
    「な……なん、なんだ、貴様……自分が何してるか、分かって……!」
    「ああ、もちろん。オマエにそういう意味を込めてキスをした」
     絶句する。見開いた目には悠然と笑むデュマが映る。
     しばらくの間その顔を凝視して、サバタは我に返った。整った呼吸が意識をはっきりとさせてくれた。
    「は、離れろ!」
    「それは聞けない相談だ」
     しかし思い出したように抵抗してみても易々と抑え込まれてしまう。気配の穏やかさとは反対に、デュマの拘束は絶対に揺らがない。骨が軋むほど強く握られているのだとすれば話は分かるが、そういうわけでもない。
     覚えのあるその力加減の理由にいきあたり、サバタはひやりとした。
     これは物理的な問題じゃない。精神的な圧力なのだ。デュマは己の空気に相手を巻き込んで制圧している。だから大して掴まれているわけでもないのに振り払えない。
     思い当たる節全てがそうだった。朧の夜に見つめられたときも、協力を仰がれたときも、二度目の吸血を受けたときも。サバタは抵抗する前にもうデュマの呼吸に呑まれていた。こちらが気づかないうちに向こうは手を打っていたのだ。それが用意周到とした計略なのか、それとも無意識のうちのものなのかは分からないが、後者だとすれば相当にたちが悪い。
    「オマエは悩みすぎたんだ。生真面目なんだろうな。悪いことではないが、そこまでくると自分を殺す毒にしかならない。……少しの間でいい、忘れてみろ」
     吐息を多く含んだ囁きが吹き込まれる。
     サバタはがむしゃらに体を動かすことをやめた。やめざるを得なかった。自由は一瞬で奪われた。
    「楽にしてやる。だからオレに身を任せて……悪いようにはしない。なぁ?」
     その言葉の方が毒だと頭の片隅が泣いた。
     
     
    【レッドクロス】
     あの入電は間違いだったと信じたくて、きっとそうだサバタが倒れるはずなんてないと無条件に思いこんでいて。
     拒絶した分だけジャンゴの頭は強く現実に殴りつけられた。
    「はっ、はぁ、はぁ……」
     部隊の最後方に追いついたところで脚が止まった。膝に手を突き必死で酸素を取り込む。どこまでも走ってゆけるなんて思い上がりもいいところだ。小さな体躯には体力ばかり有り余っていて、それを適切に燃焼させるための筋肉が足りていない。まだ成熟しきっていない肉体と逸る意識のちぐはぐさにはいつも歯噛みする。
     こめかみを伝う汗を手の甲で拭いながら顔を上げた。
     ちょうど路地から出てきたデュマが、ギルド員の腕からサバタを取り上げたところだった。
    「おいっ、何す――」
    「オレが運ぶ。キサマらには預けられない」
     多少距離は離れているが、そんな会話が聞こえる。
     周囲に緊張が走った。アーネストだけは冷静に状況を見極めようとしているようだが、他のメンバーたちは今にも太陽銃を引き抜いてデュマに撃ちかからんばかりの殺気を漲らせている。ジャンゴの心も凍った。弱っている今のサバタに流れ弾が当たったらただではすまないということを、みんな分かっていないのだろうか。
    「投げ込まれたグレネードの出処を突き止めるつもりはない。だが、これだけはよく覚えておけ」
     数人分の殺気をも押さえつける、冷たく鋭い声が響く。それは表面上平静を装ってはいたが、この場の誰よりも荒れ狂った炎をはらんでいることを、ジャンゴは己の総毛立つ肌で思い知った。
    「牙を剥く相手を間違えるな。そのスコープの照準は何のために付いている? たった一匹の害虫駆除のために森ひとつ焼き払うような頭の悪い策で、このデュマを……殺せると思うなよ」
     ジャンゴには彼が何を言っているのか分からない。事の顛末を知るのは翌日のことだ。
     けれど、あの《公爵》が誰かのために本気で怒りを覚えている。
     それだけは確かだと思った。

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