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【2次創作】【ボクらの太陽】"D"の追憶 3.リ バース

  • 登別-05 (2次創作)
  • でぃーのついおく 3.り ばーす
  • 綴羅べに
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 210ページ
  • 1,000円
  • https://text-revolutions.com/…
  • 2021/1/22(金)発行
  • ◆「公爵デュマはかつて太陽少年だった」という仮定のもと、 シンボクBAD ENDからDS本編開始までの空白を独自の考察と想像で埋めてゆくシリーズ第3巻。遂に目覚めと継承の時。第一部・完結巻。
    ◆ボクタイ布教コピー本付き(予定)

    ◆試し読み◆
     風切り音さえ彼方へ置き去り、鈍色の穂が右の眼球へと迫る。
     ぎりぎりまで引きつけてから、滑らかに身を沈め。
     頬すれすれを通り過ぎる槍先。風圧が皮膚を擦過する。
     切れてはいない――斬らせやしない。今日こそは。
     熱を上げる気持ちを抑えつけるように、右手の甲で太刀打を押しのけた。最小限の動きと力加減で文字通り横へどかし、空いた土手っ腹に引き絞っておいた左拳をねじ込もうとして、
     鼻をくすぐるきな臭さ。
     握った拳を解いて床へと突き出す。
     転がり出た先は相手の背後。だからといってこのままとれると思ってはいけない。
     左腕を軸に反転してすぐさま飛び退く。案の定、槍の追撃が来る。一穿(いっせん)、二穿、三穿四穿……瞬く間に速度を上げて、ただの一本が槍衾をこしらえた。
     その向こうで笑う大男の全身は、熱を持たないヴァンパイアにあって例外的に、闘気の入り交じった揺らめく陽炎に包まれていた。
    「形勢逆転、ですな」
     余裕綽々な態度を返され、つい舌を打つ。逆転どころか最初からオマエのペースだろうが。何度間隙を突いて攻勢に回ろうとしたか。その度に焦げつく匂いが接近を阻み、天秤の揺れ幅を無かったことにする。
     踊らされているのだ。悔しいが、そう認めるしかない。
     ……なんて、焦りと苛立ちが混ざったせいだろうか。
     危ういラインでバランスを保っていた、回避のステップを踏み損ねた。
     捌ききれなかった穿閃が遂にオレの肌を斬り裂く。
     傷は浅い。けれど小さな小さな血の玉が、弾けて虚空に散ってゆく。
     オレたちの――ヴァンパイアの求めてやまない血錆の匂い。
     うなじが痺れる。腹の奥底が唸りを上げる。熱した鉄の塊でも放り込まれたみたいに、死んだ肉体が目覚めようとする。
     その時点で勝敗は決した。
     オレはまだ、全身を巡り支配しようとする本能に己を委ねることができなくて。
     対して向こうは、理性よりも本能を優先する常時暴発可能なダイナマイトだった。
     槍衾がおかしなぶれ方をした、
     ――と思ったときにはもう、奴の姿は正面に無く。
     横っ腹に襲いかかる、衝撃/灼熱/激痛/破砕。
    「ぁ――――」
     脳まで揺るがす一撃がオレを吹っ飛ばす。意識を振り回しながらゴム鞠みたいに床を跳ねる。
     赤と黒が代わるがわる明滅した。バウンドごとに切り替わった。

     数秒か、数分か。
     オレは確かに、あの暗闇の中にいた。

     ようやく衝撃が止んで、無様に倒れ伏している自分を認識した直後。
     喉奥からこみ上げたものをそのまま大量にぶちまけた。鉄臭い、真っ赤な血だった。
     抱えた腹が熱い、痛い、気持ち悪い。
    「おやおや……少々強く蹴りすぎましたかな。内臓のひとつは破裂したでしょうか」
     霞む視界に、血液とは違う赤いつま先が入り込む。
     どうにか辿って、見上げて。
     小馬鹿にしたような相手の笑みに怒りが再燃した。けれどどうにも立ち上がれない。
    「ご無理はなさらず。死にはしませんからな。人間の血を飲めばすぐ治ります。二人ほど持ってきて差し上げましょうか? それとも……逆に、死んでおきますかな」
     何かが、舞踏場の壁際に掲げられた蝋燭の光を反射する。
     喉元に冷たい感触。また新しい血が一筋流れる。
     痛む腹部に鞭打って、血を吐きながら、それでもオレは牙を剥いた。
    「ふざけ、るな……! 情けも、慈悲も、必要、ッ、ない!」
    「……強がりだけは一人前で」
     笑みが不愉快そうに歪んだ。今のオレにできるせいぜいの反抗だ。
     ライマーの言う通り。
     強がって強がって、強がり続けて。
     この二年、がむしゃらに強さを求めた。
     そうでもしなければ立ち止まってしまいそうだった。根拠のない虚勢も張れずに、この先を生きてゆけるとは思わなかった。
     たぶん、オレはまだ、あの惨劇の夜明けの中をぐるぐるとさまよっている。
     見下ろす真っ赤な双眸がすうと細くなった。喉に食い込む鉄の冷たさが鮮明になる。
     受け入れがたい死の気配を、はね除けることもできず。
     貫かれる――前に、舞踏場の扉が開け放たれた。
    「お取り込み中失礼します。ライマー様、ご注文の品が出来上がりましたので、こちらにお持ちしました」
     ……はあ、と複雑な吐息。楽しみを邪魔された怒りと、待望の玩具が届いた喜びと。混ざり合ったそれはひとまずオレの喉から凶器を引き剥がした。
     やってきたのは同じくヴァンパイアだ。オレたちよりよっぽど古株の男だが、実力的にライマーを格上と見なしているらしい。つまりは取り巻きである。
     うずくまるオレに男は一瞥をくれただけだった。血錆の直系も、己の力を示せなければ石ころ同然。
     こちらを、と差し出されたものを、ライマーが受け取った。霞んだ目ではそれが何だか判別がつかない。
    「普段なら水を差した無礼を詫びさせるところだが……まあ今回はいいだろう。きちんと要望通りに設計したのだろうな?」
    「できる限りの手は尽くしたつもりだと、技師は言っておりました。調整はこれから、お使いいただいた感触を元に詰めてゆくと」
    「ふん……そうか」
     装填(がちゃん)。
     槍の穂より小さく、鋭い、無機質の殺意がオレを睨みつける。
     ああ、なるほど。
     渡された玩具(モノ)というのはボウガンか。
     人間の武器としてよく見る木製ではない。どこを取っても金属の質感に覆われている代物だ。いかにも硬そうなスプリングが、弾ける瞬間を今か今かと待ちわびている。
     が。
     結局、ライマーは撃たなかった。
    「こんな至近距離で仕留めても意味はない、か」
     その言葉に、その嘲りに、衝動のまま噛みつけたならどんなに楽か。
    「行くぞ。外で実用試験をおこなう。流れ弾に当たりたくなければ己の蝙蝠は引っ込めておけと通達しろ」
    「承知しました」
     二人分の足音が遠ざかってゆく。オレにはもう目もくれず。
     あっさりと扉は閉まって……また、開いた。
     今度は誰だと目を凝らせば、入ってきたのは全身包帯のアンデッドだった。
    「り、リー……」
     長い付き合いのマミーはおどおど様子を窺っていたわりに、オレの姿を認めると猛烈に慌てた勢いで滑り寄ってきた。
    「来るなッ!」
     反射的に怒鳴りつける。また血液が逆流する。ごぽ、と吐き出した血はヴァンパイアの治癒力で固まりつつあり、喉に張りついて酷く不快だ。
     リリーは床に散らばった鮮血のぎりぎり手前でびたりと止まった。寄るのを許されない代わりに、包帯の腕をくゆらせながらオレを見つめてくる。
     ……別に、怒りたかったわけじゃないのに。
     声を荒げる必要があったか? 自分にだって負担がかかるし、実際余計な力を入れたせいで腹の痛みがぶり返した。
     もっと優しく止めてやればよかった。これじゃただの八つ当たりだ。
    「……悪い。だが、それ以上は近づくな。血で汚れると面倒だぞ」
     言って、ゆっくり身を起こす。かかる自重で腹部の気持ち悪さが増す。息をついて苦痛をこらえ、負傷具合を確かめた。
     軽い裂傷はほぼ塞がっている。切り裂かれた衣服だけが不気味な名残を漂わせるのみ。横っ腹に焼け付いた足の跡が恨めしく、オレは唇を噛んだ。

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