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【2次創作】【ボクらの太陽】"D"の追憶 0/1

  • 登別-05 (2次創作)
  • でぃーのついおく ぜろ いち
  • 綴羅べに
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 216ページ
  • 800円
  • https://text-revolutions.com/…
  • 2020/12/22(火)発行
  • ◆「公爵デュマはかつて太陽少年だった」という仮定のもと、 シンボクBAD ENDからDS本編開始までの空白を独自の考察と想像で埋めてゆくシリーズ。冒頭巻。
    ◆ボクタイ布教コピー本付き(予定)

    ◆試し読み◆
     頭上の月が嗤う、嗤う。
     その肌は生贄の流した血にまみれて赤く染まり、ひび割れて歪んだ兄弟の姿を妖しい光で照らしている。
    「いつまでも未練たらしく情けをかけているからこういうことになるんだ。よく分かったろう?」
     死者に語りかけたところで、返事など戻ってきやしないのに。
     それでも自分は口を閉ざすことができず、中身の無い戯れ言を垂れ流す。まるで鏡に話しかけているようだ。
     遺体の脇にしゃがみ込んだ。騎士が君主に誓いを立てるが如く片膝を突き、銃を持たないもう一方の手で、色素の抜けた前髪を梳いてやる。その拍子に触れた額はすっかり温度を奪われていて、鋼鉄以上の冷たさを指の背にこびりつかせた。
     抱き上げた躰は予想以上に軽い。
    「安心しろ。おまえのことは、このおれが守ってやる。なんせ、おれはおまえの……」
     ずいぶん惨い言葉を吐くものだ、と意識の隅で罵倒を聞く。それが自分の中に宿る慈愛と狂気、どちらに起因するものなのか。今ではもうよく分からない。
    「おまえの、兄。だからな」
     分からないけれど、罵るのはお門違いだ、と断言はできる。
     なぜなら自分は今、これほどまでに嬉しく、穏やかな気持ちを抱いているのだから。
     木漏れ日に照らされて感じるまどろみに似た、これは、これこそが、人々が「愛」と呼ぶものなのだろうか。誰かに訊いて確認したかったが、残念なことにこの場には自分と意志疎通できそうな存在は亡霊のひとりとして存在していない。この穢れた身を《月下美人》へと押し上げた彼女の魂とも、ここへ来る前に訣別してしまった。
     だから己で結論づける。これまで生きてきたなかで与えられてきた苦痛、憎悪、悲哀。それらとは全く異なった感情だからこそ、これは「愛」なのだと。
     で、あるならば。
     相手を守りたいと思うこの意思を、酷薄だと非難されるいわれは微塵もない。

      「暗黒転移」

      呟く前と、呟いたあと。
     瞬きひとつ分の間を挟み、景色は一変する。
     周囲は豪雪に閉ざされた白銀の森から、灰色の墓標が無造作に並び立つ赤茶けた大地へと変わった。光景の印象は似ても似つかないものの、空間に蔓延する停滞の気配だけは連綿と続いている。
     弟を腕に抱えて向かった先には、粉々に砕けた墓石と、その下へ伸びる階段がある。
     瓦礫を足で蹴り除けながら地下へと降りてゆき、迷宮のような通路をひたすら奥へと進む。途中で何体ものアンデッドに出くわしたが、不躾に手を出してくるような個体はいなかった。むしろどれもが道の脇に退け、自分を畏れるように背を丸めて様子を見守っている。
    「……」
     試しに一度、歩みを止めて、近くのグールに一瞥をくれてみた。すると相手はあからさまに怯え、「キュッ」なんて悲鳴を上げながら萎縮する。
     ……ばかばかしい。
     あの男はこんなものが欲しくて、おれをマリオネットに仕立て上げたというのか。
     恐怖による世界支配。奴は自分にそう言って聞かせた。せっかく授かった知恵を愚かな方向にばかり発展させてこの星を腐敗に導く人間も、生と死の輪廻から外れてとうに意思すら失くしたアンデッドも、すべてを絶対的な破壊の影によって統轄するのだ、と。
     かれらが見ているのは自分ではない。その背後に取り憑いた絶対存在(エターナル)の、貪欲なまでに炯々と輝く一つ目と、無数の骸が織りなすおぞましい姿だ。幻視ですらこうなのだから、本体が降臨した暁にはどれほどの絶望を地上にもたらすのか。想像するに難くない。
     そんな悪趣味に屈した自分も、人のことは言えない立場にいるのだろうが。
    「総員、ただちにここから撤退しろ。これよりこの墓所へ立ち入ることは、何者であろうとも厳禁とする。……行け」
     抑揚のない声で指示を飛ばし、グールたちの反応を確かめないままに再び歩き出した。
     自分はきっと負け犬だ。最後の最後まで信念を貫き通すことができずに、秘めていた欲望を無遠慮に引っかき回されて我を失った。隙間のできた心はあっさりと人形遣いの手中に囚われ、もはや取り返しはつかない。自我を強く持てば、とかそういう問題ではなく、単純に相手の魔術が強力すぎて抗えないのだ。
     その結果が、これ。この腕の中に眠る弟の死体。  
     望んだことのはずだった。  
     弟を倒す。  
     兄の存在など微塵も知らず、知らされず、溢れんばかりの愛情を一身に受けて育った薄情な弟を、積もり積もった憎悪でもって完膚無きまでにぶち壊す。  
     それだけが《闇の女王》のもたらす暗闇を耐え抜く気力となり、今日まで自分を生かしてきた。  
     だというのに、彼を殺して愉悦を感じたのはほんの一瞬だけで、今では自分の内側がすっかり空っぽになってしまったような感覚しかない。達成感も満足感も煙と立ち消えて、亡骸から伝わる冷たさだけが、骨の髄まで染み渡る。  
     ……違う。  
     これじゃない。  
     おれが求めていたのは、こんなものじゃ。
     「おれは……一体、どこで間違えてしまったんだろうな」  
     ぼんやり、本心がこぼれ落ちた。  
     満たされない思い、守りきれなかった信念、分かたれてしまった道ゆき。それら全ての理由。  
     生まれたときからずれていたのだろうか。  
     こうなる運命だと決まっていたのだろうか。  
     結局のところ、どんなに抵抗したところで、人間は大いなる銀河の前に膝をつくしかないのだろうか。  
     そう考えたら、弟を抱きしめる手に知らず力がこもった。
    「もし、そうだとしても……おれは……!」  
     これまでにどれだけのものを失ってきたのかなんて、もう指折り数える気にもならない。あまりにも多すぎるし、積み上げたところで戻ってくるわけでもない。  
     でも、たったひとつだけ。
     「おまえだけは、絶対に……」  
     たとえ既に魂の無い抜け殻に過ぎなくとも、こいつだけは誰にも譲らない。何があっても渡すものか。決して。
     おれの、この命と引きかえにしても。

    (~中略~)

     地上に出てからは、壊れた墓石を元素の力で修復し、地下へ続く階段を塞いだ。せっかくあつらえた弟の墓を壊した人間に軽く怒りを覚えたものの、どうせ今頃は手遅れになっていることだろう。気にするだけ無駄というものだ。  
     新しく作られた墓石の表面を指でひと撫ですれば、たちまちのうちに短い単語が刻まれた。
     「──落陽」  
     ここに、太陽は埋没する。  
     過去と現在、そして未来。いつの時代も人々の希望として輝き続ける光は、それを撃ち出すトリガーと共に、まもなく永い眠りにつくだろう。  
     それが永遠のものになるのか、それとも一瞬の休息になるのか。行く末を知る者は誰もいない。  
     けれどおれは……いつかまた、弟が自分の前に立ちはだかる日がくることを信じている。  
     それまでは、どうか。
     「おやすみ、──。良い夢を」

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