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【ハイファンタジー】最後の一年、最初の一日 −ミディアミルド物語外伝集 2−

  • B-55〜56 (ハイファンタジー)
  • さいごのいちねんさいしょのいちにち
  • 野間みつね
  • 書籍|A5
  • 700円
  • https://mitsune.jp/Books/tibr…
  • 2010/7/17(土)発行

  • お前はな、無役の一等近衛なんかで終わる奴じゃないっ。──俺と出会ったのが、後ろ向きでいられる運の尽きだと思えっ。


     俺、タリー・ロファは、マーナの近衛見習として、十三歳の時から十六歳の現在まで、大過なく務めてきた。十七歳になる今年、いよいよ見習最後の一年を迎えた俺は、自分がこれから一年間専属従卒として付くことになる初年兵の名を近衛隊長から告げられたのだが……

     『ミディアミルド物語』のサイドストーリーズを収録したシリーズ。表題作の他、掌編「夜の一頁《ページ》」、表題作より遙かに長い(汗)「紳士は豹変す」、短編「幻視」を収録。

     ※「夜の一頁」は、テキレボアンソロ創刊号『初めての××』収録作品

     === 以下抜粋 ===

    「タリー・リン・ロファ、前へ」
     近衛副長から名を呼ばれて返事をした俺は、辞令を持つ近衛隊長の前へ進み出た。
     近衛見習への辞令は、通常、近衛副長名で出され、しかも、見習指導の二等近衛から手渡される。だが、この〝最後の配属先〟の辞令だけは、近衛隊長名で出され、近衛隊長の執務室に於いて、近衛隊長自身から手交される。つまり、これは、それだけ特別な意味合いを持つ辞令なのだ。
     カーモン・セリズ近衛隊長が、手にしていた辞令をゆっくりと横に広げ、やや嗄れた重い声で読み上げる。
    「タリー・リン・ロファ近衛見習。──本日より、第十三小隊、ノーマン・ティルムズ・ノーラ三等近衛兵の専属従卒となることを命ず」
    「──は、はいっ!?」
     隊長副長の前だというのに、思いっ切り素っ頓狂な声が出てしまう。
    「あ──あの、あのっ──わ──わたくしなどで──宜しいのでしょうか?」
    「良いに決まっておるから、命じたのだ」
     動転の余りに非礼とも取られかねない反応を示してしまったにも拘らず、カーモン隊長はそれを咎めることなく、かすかな笑みと共に応じてくれた。
    「ですが、その──ノーマン三等近衛といえば、あの──名門ノーラ家の──」
    「確かにノーマンはノーラ家本家の嫡子だが、まだ十七。そなたと一歳しか違わぬ、いわば互いに〝青二才〟同士だ。いたずらに家の名に臆することはない」
    「い、いえ、しかし──私のような二流武家の出の、しかも〝下賤の血を引く〟と言われているような者が付いていては、先方の名にもきずが──」
    「タリー・ロファ。此処はマーナ近衛隊ぞ」
     やや厳しい表情になって、カーモン隊長は俺を諭した。
    「家柄や血筋よりも武人としての総合的な力量こそが最も重んじられる部隊であることが、世界ミディアミルドで最強の部隊であり続けられる理由、他国にも誇り得る建国以来の伝統ぞ。そなた、実力あればこそ、この段階まで、優秀な成績で残っておるのではないか」
    「隊長が仰せの通りだ。己の出自を必要以上に卑下して晴れの場から身を引こうとするのがそなたの数少ない悪癖だと、見習指導のディパイル二等近衛も申しておる」
     ナカラ・マーラル近衛副長にまで、窘められてしまう。俺は僅かに身を縮め、はい、と頭を下げた。普段は口を利いてもらえることすら稀な隊長や副長から、一介の近衛見習でしかない自分が此処まで言われてしまうというのは逆に有難いことだと、恐縮と感謝の念が湧いたのだ。
    「タリー・ロファ。私も、そしてナカラも、ノーマン三等近衛に付ける見習として、そなたが最も相応ふさわしいと考えたのだ。……まあ、こう言ってはノーマンには悪いが、古来〝ティルマにはソーレを跨らせよ〟とのたとえもある」
     俺は耳を疑った。
     ティルマとは、軍神ソーレの駆る愛馬の名前だ。恐ろしい俊足の天馬で、一日に百万アゴラを疾走しても倦み疲れることを知らぬと言われている。ただ、とんでもない札付きの悍馬かんばでもあり、主であるソーレ以外が跨っても全く言うことを聞かず、皆々振り落としてしまうのだという。つまり、隊長が仰せになった〝ティルマにはソーレを跨らせよ〟という言い回し──単に〝ティルマにはソーレ〟と言うこともあるが──は、幾ら才能ある者であっても相応しい相手と組ませない限り力量を存分に発揮させることは出来ない、という意味なのだ。
    (先方には悪いが、ってことは……お、俺の方がソーレってことなのか……!?)
     あり得ない冗談だ、としか思えなかったが、副長も大真面目な顔で頷いている。俺は恐る恐る声を上げた。
    「……あの……お尋ねしても宜しいでしょうか」
    「構わぬ。申してみよ」
    「どうして私などが……最も相応しいなどということに……」
     隊長は、そして何故か副長までもが、困ったような苦笑を洩らした。
    「うむ……まあ、暫く傍らに付いておれば、段々と理解も出来よう。これまた古来〝馬には乗ってみよ〟と言う。……だが、我ら上層部がよくよく考えた上での配属先であることだけは、疑ってくれるな」
    「……はい」
     訊いても詳しい説明をしてくれないのは、多分、俺に相手への予断を与えたくないからだろう。そうと察した俺は、それ以上の問は諦め、辞令を両手で受け取った。

         ───「最後の一年、最初の一日」より

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