黒髪に赤い瞳……あなた……伝説のクレイン……!?
銀河連邦の植民惑星間を航行する旅客船フェントーク号が、バニラ星上空で原因不明の操船不能に陥り、墜落──挙式間近の
婚約者をこの事故で喪ったジュード・ナリタ青年は、だが、それが事故ではなく、二百年以上も生きている
伝説の超能力者クレイン・ロードにより人為的に引き起こされたものだと証し立てる映像を見せられる……
野間みつねが中学~高校時代に書き散らしていた『レジェンダリィ・クレイン』──未来世界で生きる超絶超能力者クレインこと
頼山紀博青年が主人公のシリーズから一作品を選び、大幅に加筆改稿した一篇。
こちらは、
『エモーショナル・サイオニック』の、「苦悩するチート鑑賞会」向け〝チート記載箇所抜粋〟アイテムです。主人公の特異性に関して記載されている部分を2箇所選んで貼り付けました。
===【苦悩するチート鑑賞会エントリー(No.04)】===
エセルは不意に、総身に鳥肌が立つのを覚えた。
「あなた……誰?」
彼女の思わず
洩らした問い掛けに、男は、サングラスの
蔓に手を掛け、
些少ぎこちない仕草で外した。
サングラスの下から現われた瞳の色は――鮮血を思わせる
紅。
エセル・ハミルトンは息を呑んだ。
「……赤い……瞳……」
まさか、という思いに駆られつつ、
茫然と
繰り返す。
「黒髪に赤い瞳……あなた……
伝説のクレイン……!?」
その名をクレイン・ロード、
或いは単にクレインと呼ばれる黒髪のサイオニックは、昔からフィクションの題材として
採り上げられることが少なくない。為に、多くの人々にとってレジェンダリィ・クレインとは、フィクションの中の存在でしかない。仮に、百歩譲って実在人物だとしても、
彼の有名な〝
赤星事変〟――
突如飛来して地球を滅亡の
淵に追い詰めた生命体を、宇宙から帰還した彼が死闘の末に倒し、地球を救ったという――は西暦二一一三年の出来事であり、それから
既に二百年近くが経過しているのだ。フィクションの中で語られる通りに〝青年の姿のままで年を取らない〟というのが事実でもない限り、生きているわけがない。
しかし、彼に
纏わるどんな〝
伝説〟にも共通していて、人々に知られている事柄がある。それが、彼が強大な超能力を使う
際に、元々黒い瞳の色が赤く染まるという〝
赤変現象〟である。彼が使うと言われている
鏡映し応じ返しの技を知らなくても、この赤変現象は知っている、と言う人は多い。……ただ、それにしたところで、フィクションのキャラクターには有りがちな〝特異性〟と認知され、実在しない人物であるという〝傍証〟にされているくらいである。
しかし、今エセルの目の前に居るのは、黒髪に赤い瞳といい、古い表現で〝東洋風の〟顔立ちであることといい、
二十歳そこそこにしか見えないその若さといい、フィクションで散々語られてきたレジェンダリィ・クレインの容姿を持つ男。
───「第一章 策謀」より
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「くっ……」
何であるかはわからないが強烈なショックを
喰らったような気がして、
頼山紀博は目を
開いた。
途端、胸の辺りに激痛を感じ、条件反射的な
治癒能力が発動する。意識を失っている
間に出血だけは止まっていたらしいが、傷口そのものは
塞がり切れていないようだ。普通の人間であれば致命傷だったのだから、当然かもしれない。
ただ、いつもであれば、傷口も塞がっていた
筈なのだ。意識を失った時の快復力の方が意識のある時の
治癒スピードに
勝るという異常な
超能力者、それが自分〝
伝説のクレイン〟なのだから。
(ひょっとしたら……殺されても仕方ない、と思っていた分だけ、傷の治りが
妨げられたのか……)
そうだとしたら、この、自分でもどうしようもない超常能力の
発露には、自分の意思も
或る程度は影響を及ぼせるのだろうか。
思いながら目を閉ざし、痛みに意識を集中すると、傷はいつも通り急速に塞がっていった。
(……
化物だと言われるわけだよな……)
───「第四章 終焉」より
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