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【ハイファンタジー】レーナから来た青年 −ミディアミルド物語外伝集 5−

  • B-55〜56 (ハイファンタジー)
  • れーなからきたせいねん
  • 野間みつね
  • 書籍|A5
  • 116ページ
  • 500円
  • https://mitsune.jp/Books/tibr…
  • 2013/7/13(土)発行

  • 二流?
    マーナ近衛隊の歴史の中でも一度に二十人と居たことのない一等近衛を出した家、しかもマーナ近衛隊史上最年少で一等近衛になったほどの武人の居る家が、二流武家だと?
    実力実績重視を内外にうたう我がマーナで、そんな自称が通ると思うか。


     マーナ暦デリーラ六年仲冬第二月、マーナ第一王女の婚礼祝賀の席に、近国レーナからの使節の一員として、ソフィア・レグという青年が居た。マーナ王ララド・オーディルは、奇妙なことに、以前その青年と何処かで出会っているような気分を拭い去れないでいた……

      『ミディアミルド物語』のサイドストーリーズを収録したシリーズ。表題作の他、「ある茶話会の風景」、「ダランドー叔父様との思い出」、「シベルリン小景」、「最後の夏」、「闇に向かって走れ」を収録。

     === 以下抜粋 ===

    「まだ居座りますか? それとも、大人しく退散たいさんしますか? 此処で退散するなら肩は外さずにおいてあげますが、ぐずぐず言うようなら外します。それでも抵抗するなら、次は腕を折ります。勿論もちろん、治療費はいちグロたりとも払いませんからね」
     口調こそ穏やかだが、台詞の中身は立派な恫喝どうかつである。……あのまま私に斬り付けられていたのとでは、どちらがこの若者達にとってまし[#「まし」に傍点]だったろう、と思わず考えてしまう。手のこうを踏み付けられた若者のほうは、その痛がり方からして、既に骨折しているかもしれない。
    『タリーの奴を〝温和な紳士〟なんて言う奴も居るが、ああ見えて相当に過激なところもある男だからな。争いをけられるあいだは可能な限り避けようとするくせに、もう避けられんと判断したたん、俺でも鼻白むくらいれつになる。それも、俺が見てる限りじゃ、自分が害をこうむる時にはあきれるほど我慢強いくせに、周囲の親しい奴が害を被りそうになった時は比較的あっさり容赦ようしゃがなくなる。まあ、それでも、相手に合わせて手加減をするだけの冷静さまでは失わん、と言うか失えんところが、あいつの強みであり弱みだろうな』
     随分ずいぶんと昔にノーマン近衛副長──その当時はまだ一等近衛だったが──から聞かされた話が、自然と思い出された。察するに、私が迷惑を被りそうになっていたという事実が、日頃温厚おんこうなタリー一等近衛を此処までの容赦ない行動に駆り立ててしまったということか。……私が「周囲の親しい奴」のはんちゅうはいるかどうかは疑問だが、以前クデンりょうヴェルナーサ村滞在たいざいの折に、私のことを好もしい女性だとらしていたこともあったから、その辺の何でもない女性よりは好意的に見られているのだろうと思う。
    「……少し、やり過ぎましたかね。まあ、あれだけやっておけば、うらまれるのは私の方だけで済むと思います」
     立ち去ることに同意した若者ふたりが這々ほうほうていで店を出てゆくのを見届けてから、タリー一等近衛は殆ど独白どくはくのようにそう呟き、それから「どうもお騒がせしました」と私に向かって頭を下げた。
    「お邪魔してしまって申し訳ありませんでした。では、私はこれで」
    「貴殿、いつから私に気付いていたのだ」
     するりと口から出たといは、もしかしたら、詰問きつもんの響きをびていたかもしれない。身をひるがえそうとしていた相手の足が止まり、僅かにまどったような表情が向けられた。
    「……いつから、とは……」
    「貴殿が答えたくなければ、それでも構わぬ。ただ、不思議に思っただけだ。先程のもんちゃくが起きた時に初めて私に気付いたのだとして、あんなに早く割り込めるものだろうかと」
     タリー一等近衛のほおを、かすかな苦笑にがわらいがかすめる。
    「……では、正直に言います。じょがこの店にお見えになった時に、気付いていました。……ただ、お独りで居たいのだなという御様子でしたので、知らない振りをしていようと」
    成程なるほど
     今度は私が苦笑いする番だった。何のことはない、入店の時点でそこに知りびとが居ることに気付けなかった私の落ち度だったわけだ。
    「引きめて悪かった。よしないことをいた」
    「いえ、謝罪されるほどのことではありません」
     相手はがおで言葉を返してくる。

         ───「最後の夏/ママルー亭の夕べ」より

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