凡夫の営み、脱力系メランコリックな短編集全9編。
サワガニにかんしては騙された。「甲羅の中にすきとおった羽がしまわれていて、ぱかっと開いて飛ぶんだよ」——父がおれについたささやかな嘘のこと。ありえないとは思いつつ、なぜか、そうかもしれないなあと納得もした……。日常を半歩くらいはみだして、こころやからだが通いあった(あるいはちぎれた)時間、フワッと浮くような感触。そういうものを書きました。
一編が4000字程度。それぞれ独立した物語で、サゲが「浮く」手ざわりに書いたつもり。
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【収録作】
「講和条約と踊らない叔父さん」:少年が眺める、元バレエダンサーの叔父とガールフレンド。それぞれの和解について。
「胎内の馬」:恋人と連れ子に付き添って、お盆の里帰りをする青年。立ち寄った道の駅にはメリーゴーラウンドがあった。
「飴と海鳴り」:姉から逃げ出した男が拾った、潮のにおいのする猫のこと。
「空き地の山羊」:学校に行っていない少女と働いていない叔父が、クレーンゲームをする。
「スイッチオフと苺ジャム」:ゼツボーしている兄妹が首を絞めあい、「ぬけがら」を生成する。
「ジュラ紀」:小学校の頃、恐竜みたいな図工の先生と交わした毎日の攻防。「自画像描けたか?」「描けません」
「ひととおりの憂鬱」:校庭に落ちていた小さな三角形の黒い石は、何かの歯やとげに見えた。転校してきた女の子の抱える憂鬱に、あこがれるわたし。
「海の数えかた」:正月に中学生の姪を預かる喫茶店店主の男は、海に背を向けてコーヒーを淹れる。
「飛ぶ蟹」:歳とった父の見舞いに行く、隠し子の青年。おれには歳上の「姪っ子さん」がいるかもしれない。
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・表題作「飛ぶ蟹」は、テキレボアンソロ「嘘」に寄せたものです。
http://text-revolutions.com/event/archives/5614
・試し読みはこちらにまとめています。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882692998
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アンソロやweb企画におじゃましたものと、書き下ろしが1作。発表済みのものも、こまごまとした直しを入れております。
また、書き下ろし作「ひととおりの憂鬱」というタイトルは、twitterの「フォロワーをイメージした同人誌のタイトルを考える」というタグで、季刊ヘキ・#ヘキライ主催の比恋乃さん(@hikonorgel)からいただいたものです。おそらく、そんな雰囲気をまとっている作品群なのだと思います。