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【2次創作】薄紅色の花燭【刀剣乱舞】

  • 草津-35 (ハイファンタジー)
  • うすべにいろのかしょく
  • 麻乃まめ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 36ページ
  • 400円
  • 刀剣乱舞の二次創作です。

    乱藤四郎は本丸の片隅に咲く百日紅と、夏がめぐるたびに婚姻を結ぶ。
    その年もまた、乱藤四郎は百日紅の花が開くのを待ち望んでいた。
    乱と百日紅は、一夏のあいだ寄り添って過ごす。

    乱から見た百日紅の物語、百日紅から見た乱の物語、本丸の刀たちから見たふたりの物語。

    刀剣と樹木の異類婚姻譚です。
    夢的な要素を含みます。

    ※手製本のコピー本となります。
    ※別名義の本となります。





    【試し読み】

    ひとつ、乱藤四郎のものがたり

      乱藤四郎は踊るようにくるりとまわり、防具を外した戦装束の裾を翻しながら、本丸の中庭を歩いていた。ふんふんと軽やかな歌声は、あたたかい空気のなかへと溶けてゆく。

     長すぎる雨期がようやく終わり、夏がくる。夏になれば、本丸の片隅に植えられている百日紅の花が綻び、冬眠していた彼女が目を覚ます。ゆっくりと瞼が開かれ、薄く色づいた瞳がその奥から現れるその瞬間に、乱は目の前に居たかった。一番にその瞳に映す姿が乱自身であれば良いと、仄かな独占欲を孕んだ願いを、身体のうちに燻らせている。だからこうして内番服ではない戦装束で髪にリボンを結わえ、眠る彼女の元へと訪なっていた。

     乱藤四郎の、最愛の妻。百日紅の花の元へ。その日がいつ来ても良いように。

    「ねえ、もうすぐ夏になるよ」

     百日紅の根元へ腰を下ろし、乱はするりと滑らかなその肌を丁寧になぞりながら、囁きかけた。ふいに、風が吹き抜け、ふるりと百日紅が身体を振るわせる。それだけで、乱はその時が近いことに気がついてしまう。

     夏はひたひたとやわらかい足音とともに近づいてくる。


     ***

    「歌仙さん!」

     乱藤四郎が厨に飛び込んだのは、お八つ時の少し前のことだった。まだ日射しが高く、窓から入る空気も熱を纏ってあたたかい。本丸の温度調整は各本丸に任されており、ここでは基本的に本丸に移り住んできた審神者の故郷であるという地域の気温に倣っていた。

    「歌仙は丁度、休憩に入ったところだが、なにかあったのかな?」

     ゆるやかに流した銀の髪の間から覗く蒼い瞳が乱を射貫いていた。事情を知らない山姥切長義に対し、なんでもないと勢いを失った彼が言葉を誤魔化そうとすべてを飲み込んだとき、ああそうかと呟くような声が落ちてきた。

    「もう、そんな時期か」

     厨の隅で、鯰尾藤四郎が深く頷いていた。その言葉を乱はちいさな安堵の気持ちとともに受け止める。どういうことかと問いかけるように見つめる山姥切長義に対し、鯰尾は明るい声を厨のなかへとそっと流した。

    「乱が今年も、花嫁を迎え入れる時期ってことですよ」

     顕現したばかりの山姥切長義に対し、まあ見てればわかりますって、と告げる鯰尾の言葉は煙に巻かれて厨の外へと流れでてゆく。山姥切長義は分かるような分からないような曖昧な微笑みを浮かべたのだった。

    「歌仙さんと燭台切さんに報告してくると良い。きっと、よろこぶ」

     鯰尾の影に隠れるように立っていた骨喰藤四郎の言葉に、乱がひとつ頷くと飛び出すように厨を後にした。

     百日紅と婚姻してから、夏のはじまりには乱と百日紅のささやかな婚儀が行われる。愛を誓いあうだけのささやかな婚礼。その日は乱の好きなものが食卓に並び、事情を知るものたちが、夏が来たと眦を溶かすのが常だった。

     夏のあいだには、乱は歌仙に頼んで特別に昼のお弁当を作ってもらっていた。少しだけ、呆れたような表情で了承する彼が、この夏の訪れを楽しみにしていることを、本丸の刀たちは知っている。

     歌仙と燭台切を探す、乱の軽やかな足取りは本丸のなかを踊るように巡る。ふと窓から見上げた空はどこまでも青く、入道雲が立っていた。乱の瞳は空の色ね、と囁いた百日紅の声が耳の奥で甦り、乱は頬を緩めた。

     

    ***

      ふるりと震えた百日紅の花が緩やかに綻んでゆく。乱藤四郎は晴れた空の色を快晴に溶かして見つめていた。

     ゆっくりと開いた長い睫のその奥に、懐かしい色を見つけ、乱はそっと百日紅の根元に膝をつく。初夏の日差しが枝葉を絡め取り、影を落としていた。

    「おはよう」

     そっと、百日紅の花は乱藤四郎の頬に触れる。挨拶の言葉と、ちいさな口づけ。

    「おはよう、いとしいひと」

     つるりとした木肌をやさしくなぞり、唇を寄せる。それをくすぐったいというように、百日紅は身体を震わせ、ちいさく笑う。その声は、夏の風が通り過ぎてゆくようだった。

    「また、ボクと結婚してくれますか?」

     ちいさな花を纏った枝先をやさしく握り、百日紅を見上げる。よろこんで、と囁き返すその声は、花とともに乱の元へと落ち降りつもってゆく。

    「あるじさんが、ボクたちに贈り物をくれたんだ」

     見て、と乱が取り出したのは白いヴェール。裾に刺繍の入ったレースが縫い付けられているそれを、乱はやさしく百日紅にかける。彼女のうえに、淡く雪が積もったような色合いに乱は感嘆のため息をつき、そして空色の瞳と蕩けさせ、微笑んだ。

    「とてもよく似合っているよ。あるじさんに感謝しないと。ボクではとても思いつかなかったもの」

     百日紅の彼女もまた笑みを溢し、蕾をひとつ綻ばせ咲う。しゅるりとヴェールを持ち上げた乱が、百日紅にやさしい口づけをひとつ落とした。

    「一枝、折ってちょうだい」

     生まれ直した百日紅は、例年の通りに乱に頼む。彼は百日紅の彼女のいっとう綺麗な花々のついた枝を折り、大切に抱える。これは、おままごとのような彼と彼女の婚姻の証だった。


     (後略)

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