台風接近のため、開催は中止となりました。詳しくはText-Revolutions準備会のページをご参照ください。
「やめろ…なぜだ、サー…」
呼びかけようとした名前を彼は遮った。
「その名は捨てました、殿下」
また銃を向けてきた。
「捨てて、そなた、今の人生は幸せなのか」
「なぜ、そんな話になるのです、殿下」
男は意外そうな顔をした。
「この世界で、おまえは何もなし得なかったのか」
「…そんなことは無駄でしたよ、殿下。あなたもこの世界は歪んでいると思われたのではないのですか」
「確かに最初は、な。だが、ここにも人々は生きている。それが答えだ。私は傷つけてきた、意識したか無意識だったか知らぬが、様々な人々を傷つけてきた。その贖罪を願った。それはこの世界でも同じだ。ここには生きている人達がいる。これからも私は人々を傷つけるだろう。でも…ここで生きているのなら、その生きている事の価値を見出すべきと思っているだけだ」
「ご立派なことです、殿下。でも私は認めない」
銃を彼は総裁に向けた。
「銃の発射ロックいたしました、発射は不可能です」
少年の声がしていた。
「宇宙軍の全武装、僕の配下に設置しました。正し、発射不可能はイラワディ・ペールゼン使用の銃のみとしています」
「この子供は…」
「人工知能、頭脳かな、そう言うものだ」
「よくも…」
「僕は総裁閣下のために存在するものです。閣下のお生命の保全は図ります」
浮かび上がる立体映像はまるで生きているかのようだった。
「礼服姿…しかも佐官の…」
「僕は少佐の位を得てます」
微笑む少年の姿。
「それでも私は総裁を殺す」
「閣下、腰の剣のロック解除してあります。僕は物理的に閣下をお守りすることは叶いません」
「承知した、ご苦労、リシィ少佐」
これは悲しい季節に違いない。花も咲かない、不幸を味わうしかない。覚悟は決めた。ペールゼンとともに死んでもいい、その覚悟は出来た。
「この剣は何か、おまえにわかるか」
剣にあったものは国王の紋章、それにヨーク家のシンボルとイノシシの飾り。
「それは…国王の」
「そうだ、イングランド国王に逆らう気か」
「なぜ、そんな剣を」
「イングランド国王リチャード三世の形見の品よ」
「え」
「国王の剣にて処断する。名誉に思え」
ペールゼンは驚愕した顔を見せていた。
「名誉か…あの頃なら、そう思ったことでしょうね」
「おまえ…」
「戻れるものなら戻りたい、でも叶わない。ならば、殿下」
「もう言うな。おまえは私の部下を殺した。ソレだけは許さない。その上、我が宇宙軍の風紀を乱し、テロリストを囲い込んだ。それも重罪だ」
「殿下」
「言うことはないな」
「私を殺せばこの艦は沈みますよ」
「それがどうした…」
「あなたという御方は」
「許せっ」
抜刀し、総裁は自身のかつての部下であった男を斬った。そして、剣先でその頭部を刺し貫いた。なぜ、こんなに力を入れてしまったのか、自分が解らない。彼の行いを拒絶したかった。移民したばかりの頃のわだかまりを今更思い起こさせられ、苛立った。涙を感じた。そうだ、リチャード・リースを傷つけ、その喉元に傷を残させることになった事、その母親に殴られた事。その苦い思い出をこの男は思い出させる。
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