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【百合】「ふたりぼっち。」上下巻セット

  • 熱海-16 (恋愛)
  • ふたりぼっちじょうげかんせっと
  • 桜良ぱぴこ
  • 書籍|A5
  • 80ページ
  • 600円
  • 2019/3/24(日)発行
  • 「ふたりぼっち。」
    A5サイズ(二段組)/38ページ
    「登場人物をたったふたりだけにした箱庭的世界」をテーマ にしています。

    *本文より*
     春の風を感じる中庭でぼうっとしていると、空の向こう側に、薄く白く佇む月が見えた。
    「上野さん」
     そんな静寂に包まれていた空間が、あまりにも唐突なソプラノボイスに破られ、腰を抜かしかけた。
     おもわず盛大にむせ込み、ゲホゴホとしているわたしを、そばから心配そうに覗き込むのは――
    「や、山崎さん?」
    「大丈夫?」
     彼女だ。紛れもなく、正真正銘の、山崎里子だ。
     わたしは気が動転したどころではなかった。平気だという言葉さえ出ず、ただ頷くのに精一杯で、なかなか顔があげられない。
     水筒に入れてきたお茶を一気に流し込み、ようやく落ち着いたところで、隣に腰かけた里子におそるおそる声をかけた。
    「ど、どうしてここに?」
    「上野さん、教室でご飯食べたあと、すっといなくなっちゃうでしょう? どこへ行くのかなあってこっそりついてきたら、ここに」
     横目でちらと見た彼女の横顔は相変わらず整っていて、楽しそうにくすくすと笑っていた。
    「いいところだね」
    「うん」
     どう会話をしたらいいものか。あれだけ毎日イメージトレーニングをしてきたというのに、いざ直面するとそんなものはまったく役に立たないことを知った。
     まごつくわたしに微笑みかける彼女は、その笑顔のまま夢のようなことを提案してきた。
    「ねえ! 今度から、こそっとここでお弁当食べちゃおうか」
     頭がうまくまわってくれない。里子がわたしとお弁当を? いつもの妄想が幻聴として聞こえてきてしまったのだろうか?
    「でも、」と言いかけたわたしの言葉を、まるで見透かしたように里子が遮った。友達は、という言葉をわたしは飲み込む。
    「私もね、ちょっと窮屈だったんだ、あそこ」

     籠の鳥は飛べない。
     外へ羽ばたいてこそ美しくその翼を広げるのだ。
     わたしは、彼女を解放できるのだろうか。

    「ふたりぼっち。Re:」

    A5サイズ(二段組)/42ページ
    前作から一年後を舞台に、前編と後編で主人公を入れ替え、過去を回帰しながら同じシーンを「視点違い」で読み進めていく構成となっています。前編の主人公が感じていたことと後編の主人公が見ていた世界の違いや、両方読むことで初めてわかる事実など、「一年を経たお互いの気持ち」を改めて綴ったお話です。

    *本文より*
     彼女は特になにをするでもなく、ただぼんやりと空を眺めていた。
     ますます興味を持った私は、思わず声をかけてしまった。
    「上野さん」
     静かに名を呼びかけたつもりだったのだが、彼女は大層驚いた様子で、いきなりゲホゴホとむせ込んでいた。
    「大丈夫?」
     貴重な時間を奪ってしまったかしら、と心配になる。
     彼女はただ頷くばかりで、持参していたらしい水筒で水分を流し込むと、とりあえず落ち着いたようだった。
     今度は驚かせないように、私も静かに隣へ腰かけてみた。
    「ど、どうしてここに?」
     彼女は突然の来訪者にどぎまぎしているようだった。
     ここ数週間の彼女を見ている限り、クラスではいつもひとりでいるようだったし、誰かとちょっとした言葉を交わすような光景も目にしたことはなかった。
     私は、あのガッツポーズの意味が知りたかった。
     一緒にここでお弁当を食べようと提案したとき、彼女は子猫のように隠しきれない喜びを私に向けてくれた。  
     私も、といっていいのか、どうもクラスに馴染めずにいた。
     一年のときの些細な出来事から、クラス以外の女子たちからもどこか煙たがられる存在になってしまった。
     だから、もともとひとりには慣れていた。
     そんな私になついてくれる彼女の気持ちが、素直に嬉しかった。
     毎日同じときを共有するうち、私は自然と彼女に惹かれていった。中庭での出来事はふたりだけの秘密。そんな甘い言葉の艶やかさに、私の想いはどんどん膨らんだ。
     彼女に告白したのは、ようやくうだる残暑も過ぎ、吹く風が気持ちよく感じられるようになり始めたころだった。

     でも、いまになって思う。
     あれは本当に恋だったのかな、と。

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