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【純文学】日常カンフル剤

  • 熱海-16 (恋愛)
  • にちじょうかんふるざい
  • 桜良ぱぴこ
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 176ページ
  • 1,000円
  • 2018/10/14(日)発行
  • これだけはどうしても長編の文庫として作りたい、と一念発起して書いたものがこの「日常カンフル剤」です。
    わたしの実体験としての「閉鎖病棟への入院」を基にした、ノンフィクションのようなフィクションです。

    再版するにあたって加筆修正を加えましたので、こちらが一応の「完全版」となります。
    わたしの書いたものの中では一番好評で、そして、あとがきに書きました「エンディングでの解釈が分かれる作品」でもあります。(ハッピーエンド、バッドエンド、いわゆるメリバという3つの選択肢からすべての解釈をもらいました)
     物語の前に用語解説を入れておりますのでいわゆるメンヘラ用語もおわかりいただけます。
    百合要素もありますが書き手はジェンダーフリーとして扱いました。
    特に意識されなくても問題ないかとおもわれます。

     「当事者」であれ「健常者」であれ、どこかひとつは自分に置き換えてしまうところがあるのではないでしょうか。
     どなた様にも読んでいただきたい、そんな一冊です。

    *本文冒頭*

     無風の部屋で、きれいにまっすぐと立ち上る紫煙を見つめて無心になる。扇風機もエアコンもつけずに窓を締め切り、じっとりと汗ばむからだはうっすらと熱を帯びる。
     私はつけていた煙草を揉み消して、ペンスタンドに無造作に立ててある安いピンクの剃刀を手にした。すでにいくつもの傷痕が残る手首に刃を当てると、一息に線を引く。たちまち線は赤くなり、じわじわと滲み出る液体をしばらく眺め、満足したところでティッシュで拭った。簡易の救急箱を漁って大きめの絆創膏を適当に貼り付けると、上からリストバンドをはめて止血帯代わりにした。
     リストカット自体に特に意味はない。なんとなく、その時の気分で、刃物を握りたくなることがあるのだ。そんな手近に剃刀を置いておくからだろうと言われたこともあるが、これが一番しっくりくるのだからしょうがない。親からもらったからだだの、自傷はよくないからやめろだの、散々聞かされたこともあるけれど、すでに両耳にたくさんのピアスホールを開けていて、今更大事にするもなにもないだろう。
     これは私のからだであり、他人にとやかく言われる筋合いはない。そもそも生きる意味も見い出せていないのに、傷つけないことで得られるメリットとはなんだろうか。
     私はこうして血を流すことで生を感じ、そして同時に死も感じる。その危ういバランスの上で生きていて、なんとかなっているのだから、それでいいではないか。ついに三十路になっても未だ独身で、一生治らない病気持ちだなんて、いったいどこに需要があるというのか。そんな私に「しっかりしなさい」だなんて、ちゃんちゃらおかしくて鼻で笑ってしまう。
     かかりつけの心療内科のほうが特別なにか言われることもないので気は楽だ。しかし病名さえつけば誰でも病人になれてしまうこの時代、いつ診察に行っても待合室はひとでごった返している。患者の回転率を上げるためにはせいぜい五分の診療が限界で、そんなものでなにがわかるのかと疑問を抱くことはしばしばだ。
     ――そうですか。食事は摂れていますか。はい、ではいつものお薬を。
     毎回こんな調子で取り付く島もない。カウンセリングはお金がもったいなくてすぐにやめてしまった。続けていたところでどうともならなかったとも思う。
     ともかく私は今煙草を吸ってリストカットをした。ただそれだけだ。

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