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【現代】【詩歌】あきいろ 風富来人自選小説・詩集 第零巻

  • 別府-25 (ライトノベル)
  • あきいろ かぜとみらいとじせんしょうせつ・ししゅう だいぜろかん
  • 風富来人
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 154ページ
  • 500円
  • 2017/10/28(土)発行
  • 2011年12月の執筆活動開始から2017年3月までに書き上げた掌編小説と詩の中からおすすめの作品をまとめた一冊です。
    純文学ともエンタメとも違う少し変わった作品をお楽しみください。


    【収録作品一覧】

    《掌編小説》
    「殺してやる」
    「小さな棺」
    「天使がくれたお守り」
    「見知らぬ人」
    「ひとり酒」
    「私を殺した男」
    「あきいろ」
    「支配者に告ぐ」
    「同棲生活最後の日」

    《執筆勉強会「法螺會」(ほらかい)》
    「悲哀の猟師」
    「懺悔の宴」
    「バーでの出来事」
    「絶対的サポーターとの対話」
    「DJゴッドのお祈りの時間」

    《詩集「風の詩(かぜのうた)」》
    「ルート69(ルートシックスティナイン)」
    「時」
    「シリアルナンバー」
    「歯車」
    「オワリトハジマリ」
    「恋のかけら」
    「サラリーマン・ブルース」
    「メッセージ」

    もしよろしければお買い求めいただけたら幸いです。


    ★★★電子書籍版は220円(税込)で販売しております★★★

    ●Amazon Kindleストア:https://www.amazon.co.jp/dp/B076D1T798



    ★★★以下に一作品試し読みを掲載しています★★★

    《掌編小説》
    「天使がくれたお守り」

     梅雨晴れの昼下がり、ホームレスの男が交番を訪れた。
    「すいません、どなたかいらっしゃいませんか?」
     男の問いかけに応え、交番の奥から年配の警官が現れた。
    「はいはい、どうされましたか?」
    「そこの公園で五百円玉が落ちていました」
    「親切にどうもありがとう。でも、あなたは見るからにお金に困ってそうだけど、なぜ交番に届けようと思ったんですか?」
    「はい、以前にもそこの公園でお金を拾ったことがありまして、落とし主は公園で遊んでいる子どもだったのですが、返してあげようとしたらその子の親から『汚いからいらない』と言われてしまって。それならばもし今度お金を拾ったら交番に届けようと思いまして……」
    「子どものお小遣いかもしれないお金をネコババすることはできないということですか?」
    「はい……」
     男は見た感じ三十代前半のように見えた。警官はお茶を出して男の身の上話を聞いた。
     男は、この不景気の折に会社をリストラされて収入が絶たれ、アパートの家賃を延滞して追い出されたという。気がつけば故郷に帰るための電車賃もないとのことだった。ホームレスになってから三ヶ月でここ一ヶ月風呂に入っていないということだった。
     警官は調書を取り男の届けた五百円玉を拾得物として預かった。その後、警官はポケットから財布を取り出し、一万円札を男に手渡した。
    「この一万円を使って故郷に帰りなさい。あなたはまだ若い。まだまだやり直しできる。やり直すかやり直さないかはあなた次第だけどね。とにかくまずは風呂に入りなさい。落とし主が現れた時、きれいな格好の方がいいよ」
     男は、泣きながら警官の差し出した一万円札を受け取り、警官に何度も何度も頭を下げながら交番を後にした。

     その日の夕方、男は銭湯にいた。ここ一ヶ月で体中にこびりついた垢をきれいさっぱり洗い流し湯船に浸かっていた。
     男は湯船に浸かりながら思いを巡らせていた。
    (これはやり直すチャンスだ。お巡りさんの善意を無駄にしちゃいけない。俺はやり直すんだ。また働いてお金を作ってお巡りさんに借りたお金を返しに行こう)
     男は風呂からあがり、コインランドリーで洗いたての服を着た。洗いたての服からは清潔感漂う石鹸の香りがした。
     翌日、男は高速バスで故郷に帰っていった。

     一年後、男は年配の警官に借りた一万円を返すために五百円玉を届けた交番を再び訪れた。
    「お久しぶりです。一年前にお借りしたお金をお返ししに来ました」
    「ちゃんとやり直すことができたんだね。よかったよ。お金が戻ってくるとは思っていなかったよ。あなたにあげたつもりでいたから。小遣い制の私としては思いもよらぬ出費だったけどね」
    「おかげさまで故郷で両親の家業の手伝いをしながら生活しています」
    「そうかい、それは良かった。そうそう、あの後すぐに五百円玉の落とし主が現れたんだよ。落とし主は公園で遊んでいた女の子だったよ」
    「そうだったんですか」
    「その女の子にとって初めてのお小遣いだったそうだ。報労金として一割の五十円を預っているよ。あなたに渡すことができてよかった」
     そう言うと警官は机の引き出しから小さな封筒を取り出して男に手渡した。
     報労金の五十円は手作りの小さな封筒に入れられており、表にはつたない文字で「ありがとう」と書かれていた。
    「落とし主の女の子は笑顔がとてもかわいい子でね、まるで天使のような子だったよ」
    「俺にとっては天使ですよ。優しいお巡りさんに会えて人生をやり直すチャンスをくれたんですから。この五十円はお守りにします」
    「これからもがんばりなさいよ」
    「はい、ありがとうございます」
     男は交番を後にして歩き出した。途中、公園の前で立ち止まり、しばしの間一年前の五百円玉を拾った日のことを思い出した。
     再び歩き始めると母娘とすれ違った。童謡を楽しそうに歌う女の子の笑顔はまるで天使のような笑顔だった。
                                        <了>

     その他の作品は紙本もしくは電子書籍で。

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