こちらのアイテムは2020/5/18(月)開催・Text-Revolutions Extraにて入手できます。
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【ローファンタジー】その思いを制服に込めて

  • 熱海-16 (現代)
  • そのおもいをせいふくにこめて
  • 鈴響雪冬
  • 書籍|A5
  • 42ページ
  • 200円
  • https://snowysnow.sakura.ne.j…
  • 2019/10/22(火)発行
  • 因縁の二人×共同作業

    「この国の未来のために新しい学校の制服を作ってほしい」

     魔法の生地を作るぐらいしか能がない私の元にやってきた依頼は国家ぐるみの無茶ぶりだった。
     学生時代の遺恨が残る織匠と仕立屋が、共同で制服を作り上げる物語。

     

    ストーリー

     ラスト大陸の覇権を懸けた、ノーザリア、ファイアランド、エルダーグランの三国による戦争は二年に及ぶ戦いの末に決着し、どの国も痛み分けのような結果に終わった。一年中雪と氷に覆われたこの国、ノーザリアは日々の生活にも苦労し、故に新天地を求めて戦争したとも言われているけど、結局は元の鞘に収まることになった。

     終戦から二年。人々の生活は落ち着きを取り戻し、多くの人は前を向いて歩き始めている。少なくとも、明日に向かって歩いている、そんな希望にあふれているように見えた。戦時中は各地を転々としながら魔法の研究と機織りに没頭していた私も、故郷である首都アイスブランドへ戻り、そんな光景に背中を押されるかのように魔法の研究と機織りの続きに勤しんでいた。

     そんなある日、その知らせは突然訪れた。
     裁縫師と協力して、この国の未来を担う子供達が通うことになる新しい学校の制服を作って欲しいと。
     だけどその裁縫師は、裁縫学校時代の因縁が残る裁縫師だった。

     Web企画「PixivファンタジアLastSaga」に投稿していた作品(Webで無料で読めます)のスピンオフです。
     本作だけでも楽しめるように構成しています。

     

    本文見本(書き出し)

    読みづらい場合は公式ページでも読めます

     長い長い、長い冬が終わり、短い夏を迎えるその少し前の、ふっ、と、寒さが緩んだかなと錯覚する季節。夏用の生地の納品はとっくに終わり、先日からまた冬用の生地の生産を始めている。

    「夏も来てないのに冬用の生地作りなんて、一年中冬の気分だわ」

     途切れた集中力の被害者を増やすため、織機に向かって作業中のクイナの側まで近づきながら言う。

    「なにを今更…。この国に夏なんてないでしょう」

     クイナは緯糸を巻き付けたシャトルを慣れた手つきで交換しながら正論を言う。夏用の生地なんていいながら、冬用の生地とほとんど作りは変わらない。自らの製品で夏の存在を否定している事に気がつき、「まあね」と言い返すのが精一杯だった。それでもノーザリア国民にはノーザリア国民としての言い訳がある。

    「そりゃあ、クイナの故郷から見たらこっちの夏なんて春の手前ぐらいかもしれないけど―――」

    「サーヤがどれだけ夏と言い張っても、雪が解けない時点で冬ですよ、私にとっては」

    「…はい」

     押し問答にすらならない一方的防戦を強いられている間にクイナは緯糸の交換を済ませ、再び織機が動き出した。オールン式織機の導入から一年が経ち、改良が加えられたそれは、初期型よりもトラブルは幾分少なく、第二工房の本格稼働や、クイナが仕事を覚えたことによって順調に出荷量を増やしている。綿(めん)糸(し)を発注しているリュースグリ村も住み込みの作業員を募集していると聞いた。
     生地作りが軌道に乗ったことで、私の仕事は以前のように魔法の収集と魔法陣の研究に注がれている…と言いたいところだけど、日々押し寄せてくる発注書に追いかけられている。私の代表作であるヒートクロスは細々と一定の売り上げはあるものの、製品そのものに欠点も多く、爆発的に売れているとは言いがたい。注文の多くは一般的な綿布なのが現状だ。
     この工房のなにが評価されているのか。それは、いままで手作業だった模様の表現を刺繍に依(よ)らず機械で織り込むことができるということだ。つまり、まあ、機械の性能だ。私はそんな普通の、気の乗らない注文をこなしながら、片手間でヒートクロスの要である魔法陣の簡略化や新しい染料の開発を進めている。
     魔法の力を宿した植物や鉱石などから特殊な染料を作り、それによって染められた糸を使って生地に魔法陣を織り込んでいくことで、一年中雪と氷に覆われたこの世界でも快適に生活できるだけの暖かさを持つ魔法の生地になる。数年の月日と私財のほとんどをなげうって開発したヒートクロスは私の代表作のはずであり、防寒性に突出し、おしゃれなんて二の次のこの国の人々の装いを変える魔法の布なのだ。
     しかし、世間一般から見たサーヤ・ストラ機織り工房の代表製品は、工業製品なのに模様がついた布である。そういう理想と現実のギャップも、私の集中力を奪っているのかもしれない。
     それを解決するためにはヒートクロスの最大の欠点、魔法陣に切れ目を入れると効果がなくなる、を早く解決しないといけない。
     だけど。
     乗り気じゃない普通の生地の方は売り上げも良く、作業員を雇って第二工房を動かせるだけの収入があるだけに、そんなに無理をしなくてもいいかな、なんて思ってしまう。それがいけないことだと分かっていても。

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