こちらのアイテムは2018/7/16(月)開催・第7回 Text-Revolutionsにて入手できます。
くわしくは第7回 Text-Revolutions公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

Autumn Girls!!

  • F-03 (恋愛)
  • おーたむ がーるず!!
  • nano,Miki
  • 書籍|A5
  • 36ページ
  • 400円
  • 2017/10/8(日)発行
  • 秋をテーマに女の子達の恋愛模様を描いた合同短編集です。GL(女性同士の恋愛)要素を含んでおります。
    猫被り少女三海と自由奔放な先輩佳蓮の青春恋愛劇『第一音楽室』、石焼き芋売りのお姉さん香織と彼女に熱烈な愛を注ぐ南のハートフルおいもストーリー『石焼き芋売りのお姉さん』の2編を収録。
    *表紙絵は詩音様に描いていただきました。


    *以下『第一音楽室』の試し読みです*



     ブラウスを肘までたくし上げる。  邪魔臭い髪の毛を一つに束ねて、胸元のリボンをむしり取る。第一ボタンを開けて、鞄の中に突っ込む。  グランドピアノの蓋を開け、鍵盤を叩くと、部屋に音が響く。長く調律がされていないせいで音程は不安定だが、丸く伸びやかな音が響く。  ああ、この音だ。少し目を閉じて、耳を澄ます。ゆっくりと、心が解れていく。  鞄から楽譜を引っ張り出して、昨日やったところを開く。昨日注意されたところに少し目を通して、弾き始める。  家のピアノより音程は悪いが、家族のいる家と違って、ここなら好きなだけ弾ける。第一音楽室。新設された第二音楽室のおかげで使われなくなった三階の角にあるこの場所を、先生の厚意で時々使わせてもらっている。誰にも邪魔されなくて、好きなだけピアノが弾けるこの場所は、私がずっと探していたものだった。  ああ、楽しい。息苦しい教室とも、うるさい家族からも、おさらばできる。何にも邪魔されず好きなことを目一杯出来るのなんて、ここだけなのだ。面倒臭い友達も、うるさい家族もいない。それが、なんて、なんて楽なことか。部屋中の音が、私の作った音なのだ。  最後の音が鳴り終わったとき、その音の響きが終わらないうちに、騒々しい拍手が聞こえた。振り向くといつの間にか、一番後ろの机の上に女の人が乗っていた。  「凄かった、今の」  雑な一つ結びの女の人は開口一番にそう言った。  「君の音、いいなぁ。なんか、こう、ぐわーっと来るというか、楽しくて仕方ないって音で、」  「あの、」 マシンガンの様に続けられる声に我慢しかねた私は  「誰だか知らないけど、うるさいです」  その人を少し睨んだ。  「あ、うるさかった?」  「後、拍手は残響消えてからするものです」  「あー、ごめんごめん。分かった。いなくなんね」
     私はへらへらと返すそいつを睨んだ。 この時間を邪魔しないでくれ。  体の向きを直して、また弾き始める。  途中、指が転んだところから、と始めようとして、ふと、我に帰る。 私はなんであんな事を言ってしまったのだろうか。  しかも、あのリボンの色は、緑。緑は、三年生の学年カラーだ。  つまり、あの人はーーーー  先輩。  サッと頭から血が引いていって、スーッと背中を冷たい汗が流れる。  ドアを開ける。左の廊下を見渡す。いない。右を見て、いなかったらどうしよう。あ、良かった、いた。二階へ向かって行こうとしている。  「待って!」  叫んで、走り出した。いままさに階段を降りていくその人を追いかける。  「先輩ッ」  一つ結びの先輩は足を止めて、踊り場で振り返った。  「まっ、待って……下さい」  先輩は私の方をじっと見た。追いついた、と胸をなでおろした時だった。 先輩は階下に走り出した。  「え、」  なんで、どうして。  私は待って下さいと言って、先輩はそれを聞いていたはず。なのに、なんで走り出したのだろう。  わけがわからないまま、とりあえず私はその人を追いかける。 息が上がる。心臓がどくどくと動いている。足りない息を必死に使って叫ぶ。  「止まって、下さい!」  でも、階下から響く階段を駆け下りる音は止む気配はない。階下からくすくす聞こえてくる笑い声に無性に腹が立って、私はまた叫んだ。  「待てって、言ってる、でしょ!」  二階と一階の間のフロアでその人は止まった。  やっと、止まってくれた。  ぜえぜえと肩で息をしている私を見てその人はまた笑った。  「ごめんね、つい面白くて」  「何がですか」  「ついさっきまであんなに怒ってたのに、今度は真っ青になって必死に追いかけてくるんだもん」  くすくす、またその人は笑った。白い肌に右だけえくぼができる。  こっちは謝ろうと必死だったのに、なんでこの人はこんなに笑っていられるのだ。  「で、何?」  また微笑んだ先輩を少し睨む。だけど、本来ここに来た理由を忘れてはならないのだ。  一息ついて、冷静になる。  「あんなこと言って、ごめんなさい。でも、私どうしても嫌だったんです」  一息に言って、頭を下げる。  「本当にごめんなさい、お願いです、何でも言うこと聞きますから私がうるさいだなんて言ったこと、誰にも言わないで下さい」  「んなん言ったっけ君?」  「いや、先輩にうるさいって、拍手は残響の後、とか偉そうに言ってしまって」 「あー」  ずっと笑っていた顔からすっ、と笑みが消える。空気がぴりっとして、ぞわりと鳥肌が立つ。  「よくあんなこと言えたよね、あんた上級生にさ。凄く生意気だよね」  落ち着いた声でそこまで言って、先輩は黙った。さっきまで騒がしかった踊り場は、重い空気に包まれた。私なんて簡単に捻り潰されてしまいそうなほど、重くのしかかる。  「ほんとに、ごめ」  「なんてね!」  ぴりぴりする空気の中ひねり出した私の声は馬鹿みたいに明るい声に遮られた。その人は私の頬を手で挟み、ぐっと自分の方に向ける。  「何、そんなこと気にしてたわけー?」  げらげら、笑う。  「さっきの威勢は何さ、今はそんなしゅんとしちゃってさ!そんなこと気にしないって、一人で弾いてたの邪魔した私が悪いしー」  はぁ、おかしい。笑い過ぎたせいでほら、涙まで出て来た。  私の顔から手を離し、彼女は目を拭った。  笑っている理由が分からないけど、とりあえず  「え、あの、許して、もらえますか」  「んー許す許す!てか始めっから怒ってないし」  良かったその場にへたり込んだ私を見て、あっでも、と先輩は続けた。  「まあそれはそうと今君、私がこの事を言わなければなんでもするって言ったよね?」  先輩はにやっと笑った。 「……連絡事項は以上、起立」  「起立、気をつけ、礼」  「さようならー」  私もさよーならー、と頭を下げてちらっと右腕の腕時計を見る。あー、もう四時を回ってる。先生の話が長引いたからだ。もういるかなあの人。いる気がする。鍵は私の管理だから教室に入れず外で待ってるだろう。  教室の戸を開けたとき、声がかかる。

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