こたつのしあわせ

• F-03 (恋愛)
• こたつのしあわせ
• nano
• 書籍|A5
• 16ページ
• 200円
• 2017/10/9(月)発行
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  人の心を持ったこたつは人間に恋をしてしまった！？
  こたつの幸せとは一体なんなのか、その答えを探るお話。BL(男性同士の恋愛)要素を含んでおります。
  
  ＊表紙絵は詩音様に描いていただきました。
  ＊残部残り僅かです。
   
  
  
  ＊以下試し読みです＊
  
  
  
  
  
   四畳半の狭い部屋の真ん中にどんと置かれた僕。持ち主の洋梧さんは寒いからと言って夏の布団をしまって寝るときはぼくの中で眠った。所詮僕はそこら辺にあるモノの一つに変わりはないから、誰かが動かしてくれない限りぼくはどうすることも出来ない。洋梧さんがこたつ布団から抜け出して風邪をひいてしまっても、だ。でも僕はおかしいのかな、風邪を引いてしまう洋梧さんを見てココロがツンと痛くなるし、ぬくぬくと僕で暖まる洋梧さんの心地良さそうな顔を見るとふわふわした、きゅーんとした変な気持ちになるのだ。今日も僕はいつものように洋梧さんの帰りを待つ。  「ただいま」 洋梧さんが帰って来た！ 洋梧さんは寒そうに身体を震わせ、いそいそと僕の中に入る。電源を入れられたから、早く暖めようと身体を動かす。だんだん暖かくなってきたのだろう。ほうっと一息ついて今日も疲れたーっ、と僕の上に倒れた。お帰りなさい、洋梧さん。   洋梧さんは道内でも有名な（洋梧さんがそう言っていた）大学の大学院生。生物の研究をしているらしくて、今日も遅かったから実験が長引いたのかもしれない。僕が中古店で売られていたのを買い、今こうやって夏は机、冬はこたつとして使っているのだ。洋梧さんは元々別の場所に住んでいたみたいだし、凄く寒がりなのにどうしてこんな寒い所に来たんだろう？ 洋梧さんの事は買ってもらってもう五年になるけどわからないことの方がずっと多い。もっと沢山洋梧さんの事を知りたいな。  「こたつー、おまえは俺の癒やしだよ。冬の北海道寒過ぎ。あいつを追ってここまで来たけど、結局逢えずじまいだし…あいつ、どこに行っちまったんだよ…」 そう、洋梧さんはこの寒い地へ｢あいつ｣という人を追ってやって来たのだ。なんでもその人は洋梧さんの幼馴染らしく、高校までずっと一緒だったのに急に姿を消したんだとか。どうして洋梧さんは寒がりなのにこんなに寒いところに来たのかずっと気になっていた。   幼馴染を追ってきたということはなにか事情があるんだろう。もしかして、洋梧さんの好きな人……とかかな？ だって幼馴染設定は少女漫画の定石だ、って洋梧さんが読んでいた雑誌に書いてあった。本当なのかわからないけど、そうなのかもしれない。そう考えると、ココロがキューっと締め付けられるような、少し苦しい気持ちになった。最近こんな気持ちになることがあるんだけれど、名前がわからない。僕の声はどこにも届かないから、解らず仕舞い。僕の声が届く相手もいつか見つかるかな？  洋梧さんとの生活は楽しい。部屋に一人しかいないせいか僕によく話しかけてきて、それを聞きながら洋梧さんには届かないけれど返事をする。眠る時はずっと洋梧さんの感触を感じていられるし、ただのモノなのにまるでヒトのような気持ちを沢山貰った気がする。  だけどそんな幸せな日々に変化はつきもので。  その日、洋梧さんはいつもより早く返ってきた。実験が早く終わったのかと思いきやそうではないみたいで、ばたばたと走って僕の上に倒れこむと一言。 「あいつに・・響也に会えた・・・！」 と真っ赤な顔で言う。しばらくそうした後、はっと顔を上げると洋梧さんはいそいそと綺麗に整っている部屋に忙しなくハタキをかけたり、明日出すはずのゴミを捨てにいったりし始めた。そんな彼を眺めながら、響也という人は洋梧さんのずっと探していた彼奴、なんじゃないかという仮説が浮かび上がった。多分これから響也さんが家に来るのだろう。すると僕はでふつふつとお湯が煮えるような感覚に陥った。ここは僕と洋梧さんだけの空間なのに。誰もこの空間には入って来なかったのに。お湯の中身はきっと真っ黒な毒。でもそんな気持ちを伝える術もないから、洋梧さんはどんどん準備を進めていく。押し入れの中からペット用のトイレなんかも取り出していた。まさかあいつには人では無いのかとも考えたが、幼い頃からの幼馴染が犬猫の類ではないだろうし、客用のスリッパを出しているあたり、動物好きな洋梧さんにペット同伴で会いにきたんじゃないか、と考えた。そんなことを考えたからかどんどん、この名前のわからない感情がどんどん膨らんだ。誰か僕にこの感情の意味を、名前を教えてほしいよ。