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【現代】The Turning of Short story

  • たーにんぐおぶしょーとすとーりー
  • 梓野 みかん
  • 書籍|新書判
  • 92ページ
  • 400円
  • 2019/06/09(日)発行


  • 短編集第4弾。
    第三回文フリ岩手アンソロや、テキレボ8で参加したアンソロ作品を加筆修正したものを加えた、短編小説5本入りです。
    以下、各話の冒頭です。
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    〇ある年の瀬に、帰りたくなる、それぞれのどこか。……『遠野へ』

    「トーノ?」
    「遠野、ですよ」
     遠い、野、と書くのだと教授は言った。
     地球の衛星、月の話である。
     なんでも月面探査により未知の谷が見つかり、その谷の地名を研究者の間から募っているのだという。
     「遠野」は、そんな研究者の一人であるらしい、教授が考えた名前だ。
     私は首をひねった。
    「あんまり、ピンときませんねえ」
     そうか、とやや声を落とした教授は、再び机上のディスプレイに顔を向けた。
     細くてひょろりとしてポキリと折れそうな教授の背格好は、まるで耳かきが眼鏡をかけているようで、どうにも心細い。
     そのせいだろう。この教授がどんな地名を考えたとしても、世界中の並みいる研究者たちと渡りあえる気がしない。線香のような教授は、わりばしにすら勝てそうにない。
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    〇先生が、私たちに残した四字熟語。……『さいごの授業』

     先生は、あす学校からいなくなる。
     だというのに、いつものように国語の授業はすすんだ。
     いつものように教科書が無視されているのも、いつもどおりだ。
     大人たちからはもちろん不評だ――未来を担う子どもたちに対しなんと不誠実、かつ教師としてあるまじき態度なのか、いったい子どもたちの将来に傷でもついたらどう責任をとるつもりなのかと、ひとの頭の上で、いもしないハチを追い払うがごとき剣幕におされて遂に先生はいなくなるわけだけれど、何かと都合のよかった先生だから、生徒の評は高い。
     とくに今日の先生は、しばらく生徒に背を向けて、一心不乱に四字熟語を板書している。だからクラス全員が紙をまわしあうのは、たやすかった。
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    〇「だんごまき」って知ってますか?ある夏祭りの、小さな反乱。……『革命、櫓の上より』

     夏祭り。
     私が旅に出る理由はそれで充分である。
     だんごまき。
     それが祭りの催しに含まれているならば、私は必ず足を向けることにしている。
     だんごまきの「まき」は「巻き」でなく「撒き」である。
     もともとは、お釈迦様をしのび御利益を授かるという寺社仏閣における宗教行事のようだ。本堂や境内で、その名のとおりに住職がだんごをぽいぽいと投げてはばら撒き、集まった檀家の者たちが競ってそれを拾う、というものである。拾っただんごは、もちろんそのまま貰ってよい。また、地域によっては新築の家屋の上棟式の際に、似たような行事が「だんごまき」として行われている。その場合はだんごではなく、乾いた餅や駄菓子などが施主によって、梁の上からばら撒かれる。すると事前に下に集まっていた隣近所の大人や子ども、年寄りまでもが、ぶつかりあいのどつきあいで、落ちてきた施しものを拾い合うのだ。ゲットした菓子類は当面のおやつとして子どもたちの顔をホクホクさせ、獲物を狩る本能を刺激された年寄りの肌をイキイキとさせる。
     どちらにしても、明るい行事である。
     であれば、寺とも上棟式とも関係ない、夏祭りの催しとして用いられるのは必定といえる。
    「上から落ちてくる、何か良いものを拾いあう」。
     コンテンツとしての骨組みは、夏祭りへもじゅうぶんに置換可能なのだ。
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    〇人から離れて写真館を営むウノの、特別な三月。……『三月彗星』

     今年の三月は、特別だ。
     三月一日の未明から姿をあらわした彗星は、まるまる一か月ものあいだ観測できることから、「三月彗星」と呼ばれた。
     いつもの町の空に、ひっかきキズでもできたようである。
     けれども昼空にさえくっきりと、日に日にのびてゆく白い彗星のすがたは、見えない画家が筆を走らせているようでもある。
     町じゅうが、彗星に沸いた。
     町の中心部から遠く離れた、丘の上にあるウノの小さな写真店にすら、そのブームは押し寄せた。そのためにウノは今日も、高い空に向かってシャッターを切っている。
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    〇ダムに沈んだ実家を目にした男の、よみがえる思い。……『極彩の庭』
     
     晴八の家はダムに沈んでいる。
    「たしかに、沈んだのでしょうか」
     晴八は何度も、のろのろとそう尋ねた。
     役所の男はいいかげんうんざりした様子で手短に答えた。
     ――VRもありますから。
     受付口から追い払われるように示された方へ向かうと、うす暗い通路がぽかっとひらけた。白い壁には数個のヘッドギアがぶら下がり、小さいタッチパネルがついている。パネルのパイロットランプは、利用者を待ちわびて明滅していた。
    〈ご覧になりたい家屋を指定してください〉
     このVRでは、数十年前に水没した村の家々を見ることができる。沈む前に地域の記録として撮影されたものがヴァーチャルで追体験できるサービスであることが、機械音声で案内された。
     タッチパネルの検索欄のうち、晴八は住所、世帯主名をとばし、屋号を入力した。
    〈荒吉〉
     ――アレキチ。

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    こたつ読書に、想いをはせるひとときに。
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