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【SF】【歴史】【時代劇】泡盛さん・10巻

  • 登別-03 (SF)
  • あわもりさん・10かん
  • つんた
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 180ページ
  • 700円
  • 2018/12/29(土)発行
  • 【歴史・時代劇】【SF】泡盛さんシリーズ最終巻。



    「無理な相談か、グライー」

    「あなたには縫い目も針目もない麻のシャツは作れませんから」

    「そうか…」

    「ご無礼」

    評議委員長は総裁を抱きしめた。

    「あの時は…あなたは私の真実の愛でした」

    パリの牢獄の中で。息絶えるその瞬間まで…そう信じていた。

    「グライー、おまえ…」

    「でも、ここでは違います。あなたは私のために死んではならないのです」

    「それはトマスもそう言ってた…」

    「でしょうな。あなたという光に包まれて私達は幸せでした」

    「私は…そんなに大した人間ではない。今でも迷うし、決めかねるし、強くありたいと願うが、それも…」

    「殿下」

    「あの子が言ってた、人間は誰もが醜悪だと」

    「あの子、とは」

    「リース教授の亡くなった子息の」

    「朱鷺子が言ってましたな、誰の心にも棲む阿修羅、と」

    「魔物は住んでいる、今もずっと、心の中に」

    「殿下」

    「ソレが人間。私は聖人でも神でもない。俗物だから…」

    「揺れることもある、と」

    「そうだ。グライー、父上が私の行いを見て私を見捨てたのなら」

    「なりません、殿下」

    「どうして」

    「私に引きずられてそうおっしゃるのは間違いです。私達は仕事をするだけです。犠牲になるつもりは毛頭ありません」

    そっと総裁を評議委員長は引き剥がした。最後の別れた時よりも彼は年老いた顔をしていた。この世界で長く生きた証だった。そして、彼は知らない顔をしていた。

    「おやすみなさい、殿下」

    そっとキスをする、頬に。

    「待て」


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