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インフィニティ第二章

  • A-07 (ハイファンタジー)
  • いんふぃにてぃだいにしょう
  • 凪野基
  • 書籍|A5
  • 132ページ
  • 500円
  • 2017/09/18(月)発行

  • 「シャイネが人殺しにならなくてよかった!」

    女神が創った世界を精霊が彩り、魔物が破壊する。
    多種族混在世界を舞台に、男装の半精霊と記憶喪失の騎士(仮)、主人公ふたりのすったもんだの旅路を描く長編第二章。

    大陸東岸の工業都市マジェスタットにやって来たシャイネとゼロ。
    精霊封じの工房を構える半精霊との出会い、朱金の眼を持つ半魔クロアとの出会い、そしてシャイネの父・スイレンのかつての仲間との交差によって手札が返され、ひとつの過去が明らかに。
    復讐か、それとも赦しか。
    揺れるシャイネの決断と、見守るゼロの静かな選択とは。
    一方その頃、カヴェ神殿ではレイノルドが次なる一手を繰り出さんと神都神殿からの使者を迎え入れていた――。


    【冒頭試し読み】

     耳鳴りがする。
     すぐに治まるので大事ではないのだろうが、着替えている時や、黙々と街道を進んでいる時、注文した食事を待っている時。ふとした空隙を、かん高い音が満たす。
     ゼロはその音を知っている。
     カヴェの女神教神殿で、自分とよく似た顔だちの青年、こちらを兄と呼んだ男に剣を折られた瞬間に聞いた音だ。
     それを、ゼロは封じられていた風の悲鳴だと感じた。
     だからきっと、耳鳴りではなくて記憶を反芻しているのだろう。そう、まったく驚いたことに、あの剣のことが忘れられないのだった。
     身元を明らかにする唯一の手がかりだし、精霊封じの業物で、ちょっとした値がつく逸品であることは誰の言を待つまでもない。それでも剣は剣であり、単なる道具であるはずだった。シャイネが彼女の刺突剣ディーに抱くような親愛や友愛とは無縁の存在だった。
     それなのに、悲鳴が耳にこびりついて消えない。ゼロには聞こえるはずもない精霊の声が。
     丸腰でいるわけにもいかず、新しく買い求めた剣にはいつまでも違和感が残った。シャイネがここの店は精霊が元気だと示した鍛冶屋で、十分に試させてもらってから新調したのにも関わらず、これではない、と諦めと拒否感が閃く。

    「全然違う。これじゃなくて、精霊封じのがいい。マジェスタットに行けば買えるかな」

     さりげなさを装って切り出すと、シャイネは眉間に皺を寄せた。

    「何年も先まで予約が埋まってるって聞いた気がするけど。それでもいいなら、頼めばいいんじゃない」
    「違うって。その鍛冶屋って、半精霊なんだろ。あんたとの誼(よしみ)で何とかならねえの?」
    「誼も何も、僕はその人たちのことを知らないし、向こうも僕のことを知らないよ。そういうのは他人っていうと思う」
    「他人だな、そりゃ。そうか、それもそうだな……」

     僕たちはそれぞれ独立して人間の暮らしに紛れているから、互いの事情には明るくないのだ、と彼女は渋い顔で付け加える。そういえばシャイネは半精霊でありながら、森の王たるヴァルツの名も顔も知らなかった。てっきり皆顔見知りで、一括りに親戚づきあいのようなつもりでいたが、実状は全く異なっているらしい。
     マジェスタットの半精霊が商う精霊封じの武具は旅人たちの間で有名だが、注文してからどのくらい待つのか、費用はいくらかかるのか、といった実際的な話はほとんど聞かない。シャイネの刺突剣は狩人として鳴らした父から譲られたものだそうだが、それ以上のことを彼女は何も知らなかった。

    「父さんがマジェスタットまで行ってディーを手に入れたってことは聞いたけど、いくらだったとか、そんな話はしたことないなあ。興味はあったけど訊きづらいし、あんまりそういう自慢はする人じゃないから」

     かといって、精霊封じの武具を持つそこいらの旅人を捕まえて訊くわけにもいかない。
     ともかくもマジェスタットを目指すしかなかった。東に向けて歩を進め、訪れた宿場町でめぼしい依頼があれば小金を稼ぐ。カヴェから離れ、追っ手の心配がなくなってからの歩みはゆっくりだった。
     旅暮らしの身であっても、満足に食べて眠る場所を得るには金がいる。毎日野宿するにせよ、食糧まで現地調達というわけにはいかない。魔物と出くわせば怪我もするし、夜には灯り油を消費する。
     折れた剣を修理してもらうにせよ新しい剣を求めるにせよ、大金が必要なことには変わりない。不必要な出費は避けたかった。しかし、まずい飯や湿った寝台で我慢するのも耐え難く、仕方なしに夜遊びを止めて、酒も量を減らした。
     早い時間に寝て日の出早々から薬草を摘みに出る日が続くと、ヴァルツには「品行方正じゃないか」と腹を抱えて笑われ、シャイネは気味悪げに半歩下がった。愉快ではない。
     ヴァルツに助けられて目覚めて以来、何かを目的として掲げることなど滅多になかった。依頼や仕事を受ければそのために動くが、自分自身のために欲したことがあっただろうか。
     身元を明かし、失われた記憶を求める。大義名分はあれど、あまりにも曖昧で掴み所のないお題目に、積極的に挑む意志は薄らぐ一方だった。「私が助けた命を粗末にするな」とヴァルツが烈火のごとく怒るので、依頼を受けて食い繋いではきたが、嗜好品や女遊びを止めてまで剣を求める気持ちは切望と言うほかはなく、戸惑うばかりだ。

    「剣に宿ってた精霊さ、風なんだろ。ちょっと召(よ)ぶとかできないのか」

     できるだけ未練を感じさせぬよう、もう一度会ってみたいとはどうあっても悟られぬよう、軽い口調で頼んでみたところ、シャイネは半眼で唇を尖らせた。馬鹿なんじゃないのと顔に書いてある。

    「風って一口に言うけどさ、たくさんいるわけ。わかる? そのたくさんに呼びかけて特定の風を召ぼうにも、僕はあの子の名前を知らない。誰かが名前をつけなかったせいで」
    「うっ」


    (続きは同人誌版でどうぞ/カクヨムにて全文公開中)

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