二人の人間が静かに庭を歩く。腕に抱えた少年の軽さに医師である男の顔はかすかに曇る。発熱している事にも。
「ヘンリー・・人がいる」
腕の中の少年が顔を向けた先。
「え」
生け垣のそばに人が倒れていた。二人は用心しつつ、近付いた。白い布から長い黒髪が見えた。
「この皮膚は…これ以上はなりません、陛下、ペストです」
彼は連絡を取り、次の言葉を続けた。
「防護服用意したスタッフをここに寄こすそうですが、陛下」
「何」
「用意がありますので、私は管理棟に戻ります。この毛布、外してはなりません、いいですね、これは医療スタッフとしての指示です」
「…わかった」
毛布を握りしめ、少年はその倒れている人のそばに座った。医師である男が去っていった。
「あの男は何者だ…」
倒れたまま、その人が絞り出した声。
「あなたはどちらの御方ですか…その話し方は…十四世紀頃の御方とお見受けいたしますが」
「私、か」
こちらを向いた顔。
「殿下…」
「私はそなたを知らぬ。が、そなたは私を知っている様だな…陛下と呼ばれていたな、あの男は何者だ」
「…弟君、ジョン殿下の子孫、ヘンリー七世です」
「ジョンの…面影は…君の方が…エドマンドに似ている」
「私は…そのエドマンドの…ひ孫にあたります」
そんな後の世代の者と出会う、それは薄気味が悪い。
「陛下、と聞こえた」