主従もの少女小説。
カバー付き、ページ数は確定後追加いたします。
2014~2014に発行した同作の挿絵付き新装版(上下巻に再編・加筆修正)となります。
(本文サンプル)
十一
少年を乗せて、列車は西へと向かっていた。
「あるじ様、泣かないで」
「あるじ様、元気を出して」
窓から差す陽光に暖められた特等車の柔らかい座席で、しくしくと泣き続けるベネディクトに、彼の双子は途方に暮れたように何度も声をかけた。
二人の主は元々泣き虫だったが、いつもの彼ならば、双子のたどたどしい励ましに顔を上げ、無理にでも笑顔を作ってやせ我慢をする。泣き虫だけれど、強い少年なのだ。けれど、その日の彼は一向に泣き止む様子を見せなかった。大粒の涙が彼の顔を覆う柔らかい手を濡らし、次から次へと膝に落ちる。
内気な双子は恐怖していた。このまま、泣き止んでくれなかったらどうしよう。小さな身体から溢れだす、大きすぎる悲しみが、大切な主人を壊してしまうのではないだろうか。
コンパートメントに他の大人の姿は無い。少年は使用人すら殆ど連れず、祖父から賜った新しい領地へと向かっているのだ。
向かう先は帝都を遠く離れた西の土地で、それまで彼の父エーベルハルトの領地の一部であった、農業の盛んな場所だという。
十六の誕生日に祖父から分家を命じられた少年は、アヴァロンの名を捨て、明日からはそこでベネディクト=エイミス・ハミルトン──ハミルトン公爵として、暮らすことになる。足を踏み入れたことのない土地の、見知らぬ城で。