【『痛覚』さまからの委託品です】活動停止してしまったヴィジュアル系バンド「セイレーン」のギタリスト・しのぶと、ヴォーカリスト・れいら。寂しがりなふたりの、なにげない場面を切り取った掌篇集です。
表紙はファーストヴィンテージ(ターコイズ)に白黒二色刷り、本文用紙はコミックルンバ(ピンク)。
デスクトップPCのモニタで裸の女が微笑んでいる。いっけん違和感のない画像の、首から上はれいらだったが、首から下はどこの誰ともわからない少女の裸体であることが、しのぶには一目でわかった。
――「あけがたの人魚」
「だれでもいいの? 相手」
ギターのしのぶが興味なさげに訊いてくる。れいらは首をかしげた。
「だれでもよくはない、かな? なるべく興味のないひととか、どうでもいいひとのほうがいいかな」
――「あけがたのコンフェッション」
それでもキーはためらわない。静かに息をひとつ吸う。
背後からヘッドフォンを奪い取ると、しのぶは長い睫毛を二、三度瞬かせて目を開け、ゆっくりと頭をめぐらせた。
――「午後四時の憂鬱」
以上の三篇を収録しています。