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蔵出しミックスナッツ −ジャンルごた混ぜ短編小説集−

  • 委託-26 (小説|その他)
  • くらだしみっくすなっつ
  • 野間みつね
  • 書籍|A5
  • 60ページ
  • 300円
  • http://mitsune.jp/Books/seige…
  • 2014/11/19(水)発行

  • ……私の名は、災いを呼ぶから。


     「歩出斉城門、遙望蕩陰里……」 聞こえてきた歌声に、青年は覚えず足を止めた。

     野間みつねが過去に何処かで個別に発表したものの単行本に纏められる当てのなかったジャンル区々まちまちな短編作品を、ふと思い立ってごた混ぜに集めた一冊。一次創作5本「梁父吟りょうほぎん 習作」、「Yoriyama Brothers」、「落星前夜 習作」、「Escape!」、「星祭りにはまだ早い」と、二次的著作物ではない二次創作2本「伝説の前に」、「誓言せいげんから逃げる魔道師」を収録。

     === 以下抜粋 ===

    「その魔道師は潔くないわ」
     更に何曲か短い歌を歌って解放されて後、早速と言うかやっぱりと言うか、フィリアが決め付けてくれた。
    「そんな忌まわしい存在として生まれたとわかっていて、生きることにしがみ付くなんて。私なら世界を危険にさらすより死を選び、神の御許みもとへ行くわ」
    「でも、生き続けることを選ぶのも大変ですよ。いつ自分の肉体と魂とを奪われるかという恐怖にたなくては、生きていけませんよ。私なら到底耐え切れませんねえ。その恐怖に押し潰されるだけで死んでしまいますよ」
     ケルクがのんびりと笑う。自称〝臆病者〟らしい台詞だ。
    「だから! 世界の平和秩序と自分の命とを天秤に掛けるなんていう神経が信じられないのよ!」
    「まあいいじゃないか」
     ラダが五杯目の麦酒エールを飲み干しながらなだめる。彼は難しいことには余り関心がない性分なのだ。
    「良くないわ! もしあたしがその魔道師に会ったら、光の神エルシア様の御名みなに於いて引導を渡してやりたいわ!」
     どうもフィリアは酔っているらしい。少しばかり目が据わっている。
     僕は、例の黒ローブの魔道師に目を転じた。最前からずっと口を開かず、胸の護符アミュレットに時折触れながら、何かの思いに沈んでいるように見える。
     彼は、僕の視線に気付いたか、ゆっくりひとつ瞬きをして、僕に何処か遠いまなざしを向けた。
    「あなたは──どう思います?」
     ふと、僕は尋ねていた。何だか無性に、この魔道師の考えを聞きたくなったのだ。
    「……君は、どう思うんだ?」
     奇妙に深い淵から響いてくるような声に、僕は何故か胴震いを覚えた。
    「僕は……逃げるから追われるのではないかと思っています」
    「逃げなければ追われない?」
    「それは……わかりませんけど……」
    「そうだな」
     魔道師は頷いた。ゆっくりと、そして、ほんの微かに。
    「それは多分正しい。奴は、彼が悉く逃れ、逆らうからこそ、尚更彼を手に入れようとするのだ。だが、だからと言って逃げることをやめれば、奴の手に捕らわれるだけだ。逃げ続けるしかない……」

         ───「誓言から逃げる魔道師」より

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