* あらすじ
リストリア皇国はメリア州都ヒース。レナの脅威にさらされつつも、日々はゆるやかに過ぎていく。そんな日々の中、語り手、マイロ・レミオンは、新たな出会いを交えながら、リオと、リオの周囲の人々と、なごやかに交流を深めていく――。
* 作品紹介
サイエンスファンタジーを略してSFなSF小説です。立場としては『イフリータ』の続編にあたりますが、時系列ごったまぜ短編連作形式を採用していますので、掲載話の時系列はごったまぜです。『ナイラ』『牛肉の日』『猫と犬』『浮遊性同居人』『恋する理由』『態度の理由』『タイム・カプセル』の計七話を収録しています。
* セット販売
複数冊を購入予定の方にはお得なセット販売をご用意しています。ご検討ください。
* 試し読み(『タイム・カプセル』より抜粋)
おそらくは、思い出、というものは、ガラス玉を宝石に見立てるようなものなのでしょう。それは本物の宝石でなくとも、懐かしさと愛おしさをも光として、記憶の中に輝くのです。これは、そんな特別を記憶の中に埋め込んだ、ある一日のお話です。
この日は、娘イーニアの誕生会でした。イーニアの友人とその父母のほか、イーニアの希望でリオ、ミカロ、ハドといった面々も招待し、会は子供たちの歓声と大人たちの談笑でなかなか賑やかに進んでいきました。
ミカロとハドも日頃よりは多少こぎれいな出で立ちで、リオはスカートこそ履いていなかったものの、ドレスシャツにグレーのスラックスという姿で場に臨み、結果として子供たちの「男のひと? 女のひと?」という疑問を浴びていましたが、特段気にする様子もなく、「さあどちらでしょう」とひょうひょうと笑っていました。どうやらリオは、自身の体格が成熟したものでないことは気にしているようですが、自身の中性的な顔立ちはそれほど苦にしていないようです。
この日、リオ、ミカロ、ハドは参加した大人たちのなかでも特に子供たちと年が近かったこともあり、無事子供たちに指名され、かなりの時間子供たちの遊び相手を務めていました。とくにリオは人気者で、ことドッジボールが始まったときには、バネのような体捌きで肩までの赤毛をひるがえして活躍し、次々と相手チームを沈めていました。ちなみにこの時、ハドは多少粘りましたがリオの一撃に離脱、ミカロに至っては冒頭数分に子供の一撃を浴びて退場となっていました。「未熟者」とせせら笑ったリオに、「やかましい自慢じゃねえけど反射神経死んでんだよ」とミカロが悔しそうに返していたのは余談です。まあ、義足のミカロにドッジボールの相手をさせるというのも、たいがい大概な話ではありますが。義足を披露することなく素直に参加したのは、場を盛り下げまいというミカロ流の気遣いだったのでしょう。
そんな風にして、食事やおやつ、ゲームをしながら場は進んでいき、いいかげんイーニアも遊び疲れたのか、そのときはリオの膝の上でプレゼントの本を読んでもらっていました。リオの少年のような声が、物語を読み上げていきます。
「『ねえ、タイムカプセルを作りましょうよ。今日の素敵な記念になるわ』、と、エイニーは言いました。それは素敵だ、と、三人と大人たちは、タイムカプセルを作ることとしました」
「ねえリオちゃん、タイムカプセルってなあに?」
「ええっとね、」
イーニアの疑問の声に、リオは少し考え込む風情でした。
「私やったことないんだよね……。ハド、説明できる?」
「ごめん、僕も概念は知ってるけどやったことない」
「ミカロは」
「やったことあるにはあるけどさ」
「へえ、どんな?」
リオの問いに、若干照れくさそうに嫌そうに、ミカロは説明しました。
「けっこう始末に困るもんだぞ、あれ。まあ要するに、その時の自分の考えてる事だとか、何年後かに残したいものを適当な容器に詰めて、鍵かけるなり埋めるなりするんだよ。五年か十年か二十年か、ある程度先の未来で改めて開封して、恥ずかしさに呻くとこまでがセットだな」
「へえ。ちなみにミカロは何を埋めたの」
「将来の夢だの今好きな人だの、よくまあこんなもんシラフで書けたなって手紙が一通出てきたよ。間違っても他人には見せられねえのに、捨てるのも妙に忍びないし、どこにしまい込もうかってまあ苦労した。……けど」
そう言って、ミカロはしばらくイーニアを見つめ、ややあって、にっと笑いました。
「やってみるか、イーニア?」
* 試読巡りリンク
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