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【エンタメ】【ローファンタジー】【SF】【ライトノベル】イフリータ

  • 嬉野-37 (ライトノベル)
  • いふりーた
  • ワシズアユム
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 70ページ
  • 650円
  • * あらすじ

    リストリア皇国はメリア州都ヒース。語り手、マイロ・レミオンがヒース公安隊に配属されたその日、彼は一人の少女と出会う。小柄で細身、かつ中性的な容姿をもつ赤毛の少女は、ヒース公安隊の『炎の女王』だった――。

    * 作品紹介

    サイエンスファンタジーを略してSFなSF小説です。時系列ごったまぜ短編連作形式、本作は入門編的な一冊で、最初にこの一冊を読んでおけば、あとはどの短編をどんな順番で読んでもOK、という一冊となっています。表題作『イフリータ』のほか、『レナ』『白の騎士』の計三編を収録しています。


    * セット販売

    複数冊を購入予定の方にはお得なセット販売をご用意しています。ご検討ください。


    * 試し読み(『イフリータ』より抜粋)

     これは、私の物語ではありません。私の良きパートナー、リオ・フェルミィの物語です。
       
     私、マイロ・レミオンがリオと出会ったのは、メリア州都ヒース公安隊に配属が決まったその日のことでした。三ヶ月の基礎訓練を終了させ、ヒース公安隊ガルバニア本部長に着任の挨拶を済ませ、ヒース公安隊の現場責任者であるデュマ隊長に、じきじきにヒース公安本部を案内していただいていた時のことです。
    「すると、娘さんの心臓の治療費を捻出するため公安に?」
     「はい」
      甲斐性のない父親で不甲斐ないばかりです、と苦笑して、金色に透ける光の羽をきらきらと輝かせながら掃除をしている人造妖精を横目に、私はデュマ隊長に話したものでした。
    「最近になって治療法が確立された病であったことは幸いでしたが、治療には多少特殊な手術が必要で。生活に不自由はさせていませんでしたが、高額医療費までは賄えませんでした」
      そうか、とデュマ隊長はそっと笑い、私に尋ねました。
     「では、娘さんと夫人は首都に残して?」
    「私はそのつもりだったんですが、二人とも付いていくと言って聞かなくて。娘の術後回復も良好でしたし、家族でヒースに越してきました」
    「それでは意地でも、出動後は帰らなければならないな」
     からかうように隊長は言い、私は「はい」と笑いました。
     廊下を先に立って歩きながら、微笑ましいものを見る目で隊長は笑み、気を取り直したように私に言いました。
     「経歴に基礎訓練の成績は確認させてもらった。十八の歳から二年の兵役後に三年を皇国軍狙撃隊で過ごし、結婚を機に退役。退役後は民間の射撃訓練場で指導員を四年務める。まあ経歴に似合う成績だ。特に狙撃に関しては新人の域を越えていると評価がついている」
    「光栄です」
     「恥ずかしながら、ヒース公安隊は狙撃兵の育成が遅れていてね。今訓練中の隊員がものになるまでもう少しかかる。その間、頼りにさせてもらうよ」
    「精一杯努めさせていただきます。……ところで、我々は今、どこへ向かっているのですか?」
     温厚な人柄はにじませながらも、はっきりと切れ者、智将であると風体が物語るデュマ隊長は、しかしこの時は温厚な人柄を前面に出しました。
    「隊員詰所だよ。一通り施設は案内したが、肝心の隊員仲間への挨拶がまだだろう。それに、君のパートナーとも引き合わせなければね」
     「パートナー、ですか」
      そうだ、と隊長は笑んで言いました。
    「公安隊の行動単位は最小で二人一組だ。単独行動は推奨されていないんだが、一人だけ、パートナーが定まっていない隊員がいてね。君には彼女と組んでもらいたい」
      彼女、ということは女性か、と少し意外に思ったことを覚えています。好奇心のままに、私は尋ねました。
     「ヒース公安隊に、女性隊員は何名いらっしゃるんですか」
    「いないわけではないが、多くはない。後方支援や医療班に何名かを数える程度、戦闘部隊に至っては彼女一人だ。ヒース公安の女王陛下だよ」
     「女王陛下?」
      訝しむ私には含み笑い一つを返し、隊長は「さあ」と私を促しました。
    「ここが隊員詰所だ」
      言いながら扉を開けて入室したその部屋は、心地よい喧騒に満たされていました。公安隊と言えばL級事案を専門とする機動部隊、待遇はいいが死亡率も高い、ここまでが私の知識にある公安隊のイメージで、故に残るのは古兵《ふるつわもの》ばかり、必然的に一癖も二癖もある荒っぽい集団を想像していたのですが、見渡す限りヒース公安隊の面々は、クセの強さは予想通りのよう、と見たものの、アウトローの匂いは感じられませんでした。
     彼らはめいめいに談笑したり、読書午睡音楽鑑賞を嗜んだりと思い思いにくつろいでいましたが、入室したデュマ隊長に気づくや、居住まいを正し談笑を止めました。余談ですが、なるほどクセの強い隊員揃いにも関わらず統率の存在を感じられるのは、この隊長の人望もあるようだ、と私などは思ったものです。
     「談笑中にすまない、邪魔をするよ。諸君に新しい仲間を紹介しよう。マイロ・レミオン。皇軍あがりの狙撃兵だ」
     目線で促され、私はとりあえず一礼しました。顔を上げて軽く周囲を見渡すと、彼らははっきりと興味深そうに、また幾分値踏みするように、私を眺めていました。
     「狙撃の腕は私が保証しよう。見ての通りの温厚な男だ。夫人を持つ一児の父だから、春の遠い数名は大いに薫陶を受けるように」
     お前のことだな、と誰かの軽口が飛び、その場が軽く沸きました。ぱんぱん、と空気を引き締めるように隊長が手を叩き、よく通る温厚な声がその場をまとめました。
    「以上だ。各自交流に励め。解散」
     言うと同時にその場の空気がほどけ、談笑の声が戻りました。隊長はそんな喧騒の中、来なさい、と目で合図すると、部屋を窓際に進みました。目指す窓際には一脚、だいぶ年季の入った安物の長椅子が置かれていて、そしてそこに、ぼんやりと彼女は座っていました。
    「リオ」
      呼びかける隊長の声に、彼女はふと顔を上げ、しなやかなバネのように長椅子から立ち上がりました。  見た目は少年のようでした。肩までの長さの赤い髪が、かろうじて少女であると示す程度、それほどに中性的な顔つきと体つき。背はそれほど高くなく小柄、失礼ながら全体的にふくらみ丸みが薄く、けれど腰回り肩周りの細さ滑らかさは隊服越しにも見て取れる、透明な空気をまとった少女。私たちを見つめるザクロ石の瞳には、不思議そうな光がありました。
     「はい。……なんでしょうか」

    * 試読巡りリンク


    https://wp.me/pco2ha-3R

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