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【恋愛】【ハイファンタジー】オフィーリアの花輪【R15】

  • おふぃーりあのはなわ
  • 服部匠
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 72ページ
  • 500円
  • 2020/04/10(金)発行
  • R15の自主レイティングのある同人誌です。一部作品に性暴力を想起させる描写・設定がありますので、15歳未満の方のご購入はご遠慮ください

    奇病に侵された青年、欲望に蹂躙される術士、国を滅ぼす悲劇の魔王――優しく儚くセンシティブな「男性ヒロイン」

    身近な女性の愛や情愛によって救われる男性――「男ヒロイン」を主題にした掌編小説集

    表紙イラスト:歌峰由子 さま

    ◆入水自殺への抗えぬ衝動を誘発する「オフィーリア病」に侵された儚い美貌の青年小説家と、それを受け止めざるを得ない配偶者。小説家の苦しみと再起の軌跡(オフィ―リアの花輪/表題作)
    ◆稀代の回復術士・シュクレは、能力ゆえに敵国に拉致される。危機を救うのは彼の娘である護衛騎士(綺麗で優しい回復術士(父)を守る護衛騎士(娘)の話/R15版)
    ◆とある異世界、精霊姫が幼なじみの魔王を結晶に閉じ込め「婚姻」して共に滅びる運命の物語(滅びとの婚姻)

    ※再録本です。小説投稿サイトのカクヨムエブリスタで公開しているものに多少の修正を加えたものです。大幅な加筆はありません。

    <冒頭試し読み>
    ◆オフィーリアの花輪
     夏至の昼が終わろうとしていた。
     真っ直ぐ病室に向かう迷いのない足取りとは反比例に、病院独特の匂いは、何度来ても慣れることはない。
     面会に少し日が空いてしまったことへの、いくばくかの罪悪感を持って重たい扉を開ける。
     彼はベッドで上半身だけを起こし、いつもと変わらぬ柔らかな笑みを浮かべて窓を見つめていた。私の存在に気づいて「やあ」と頭を揺らす。すると、軽く纏められていた長髪がさらり、とほつれて流れた。
    「雨が降らなくてよかったね。梅雨入りしたんでしょう?」
     小首をかしげ、彼は言った。
     思わず目を細めたのは、突き刺さるような西日のせいだけではない。
     彼は三十路を過ぎたはずだが、どこか幼く頼りない。子どもの頃は女っぽいとからかわれていた中性的な容姿も、成長と共に男性らしい精悍さと――ともすれば柔らかな美しさと愛らしさを兼ね備え、伸ばしたままの長髪は、より彼の特徴を際立たせていた。
     男とも女とも言えぬ――ただし肉体、性自認は男性である――はたまた、俗世にいることすら不思議な純粋さを持ち合わせた、稀有な人。もともとそうだったのか、この病室で過ごすことが多くなってからなのか。長い付き合いの私でもわからなくなってきたくらいには。
    「梅雨入りしたよ。そうだ……ジメジメするんだから、髪を切ればいいのに」
    「面倒でね」
    「面倒、って」
     なんのことなく放たれた言葉は、羽のように軽い。
    「今の僕には、身だしなみを整える意味がほとんどないから」

    ◆綺麗で優しい回復術士(父)を守る護衛騎士(娘)の話
    「さあ、具合はいかがですか。痛みは消えましたか?」
     優しく語りかける声音は、いつだって温かい。
     老婆に向かって、にこり、と青年が一つ微笑む。無病無傷の者でさえ心の奧がじんわりと温まり、安堵を覚える笑みが広がった。
     ここは、小国ノワゼット辺境の村。農業が中心の、牧歌的な雰囲気が漂う集落である。
     青年の年の頃は二十代前半。柔らかく下がった目尻と眉は整っており、人の良さを感じる。無駄な角張りのない頬や顎、整った鼻筋、やや色白できめ細かな肌。そして絹糸のように繊細で、うねりなどなく美しく腰まで伸ばされた髪の毛。すらりとした線の細い体型。
     彼は、一瞬女性と見まごうような――しかし男性らしさも併せ持つ魅力を持つ、まさに美青年。
     彼の名は、シュクレ・テンカート。国直属の回復術士である。
    「ええ、ええ、ありがとうございます。ずっと患っていた痛みが、すーっと消えていって」
     頬を紅潮させ、感謝の言葉を述べる老婆に、彼は先ほどとはまた違う――そこかしこに花が咲き乱れんばかりの笑顔を浮かべた。
    「それはよかった! ああでも、神経系の痛みは、ぶり返しがありますので……これを差し上げます。十回は使えると思うのですが、足りなくなったら、町のお医者さんを通して私に教えて下さい」
    「お札までいただいた上で、そんな、お国の回復術士様に対して、平民の私めがそんな大それたことを……」
     遠慮する老婆の前で、いそいそとシュクレが差し出した札は、神経系の痛みを緩和する術の込められたもの。回復術士だけが作ることのできる品である。
     老婆は畏れ多いと言った様子で、差し出されたそれを受け取ろうとしない。
     しかし、彼は柔らかな動作で、札を老婆の手に握らせた。
    「ここに立ち寄ったのもなにかのご縁でしょう。お医者さんには私から話をしておきますので、ご安心を――他に、持病や怪我があるかたは?」
     シュクレは腰の曲がった老婆のために屈めていた背を伸ばし、立って辺りを見渡す。彼の纏った服の裾がひらりとはためいた。白と青の清楚なローブの裾は土で汚れているが、それを気にする様子はない。

    ◆滅びとの婚姻  
     透き通る結晶の中。閉じ込められた男は、世界を滅ぼす魔王である。

       :::

     静寂が漂う夜の礼拝堂は、今にも消えそうな、短いろうそくが薄暗く室内を照らし、簡素な花で飾られている。それは婚礼の装飾なのだが、華やかさにはとんと欠けていた。
     世界は、戦乱が長く続いていた。礼拝堂のあるこの村にも、本来、祝いごとをできるような物資は残っていない。
     席には参列者の姿はない。さらに奇妙なことに、祭壇の前……新郎が立つ場所に、人間が一人ほどの大きさのなにかが、布をかぶせられて置いてあるだけだ。
     婚礼の儀は仮初めで、これから行われるのは葬式なのではあるまいか。
     静寂を破ったのは、扉の開く音。
     ぎいぎいと耳障りなそれと共に姿を現したのは、白の婚礼衣装を纏った花嫁が、ただ一人。長い髪を綺麗にまとめてはいるものの、小さな花一輪で飾っただけの装い。よく見れば衣装も、所々がすす汚れ、破れている。
     立っているのは花嫁だけ。付き人の姿すら見えない。参列者はおろか、花婿の姿すらない婚礼など、婚礼と言えるのだろうか。
     扉が閉まると、彼女はしずしずと祭壇に向かって歩き出した。
     やがて祭壇の前に立った彼女は、彼女は布をかぶせられたものの前に向き合い、布を取り去った。
     姿を現したのは、縦に長く、巨大な緑色の結晶。
    「国よ、民よ。そして父よ、母よ、ご安心を。私が、魔王と添い遂げ、平穏を取り戻します」
     花嫁が結晶を真剣に見やる。
     視線の先にあるのは、結晶の中に閉じ込められた男の姿。
     纏った衣装は漆黒で、金色の刺繍が施されている。風を受けたまま閉じ込められたのかと見まごう、たなびくマントと、すべてを受け入れたようにまぶたを閉じた姿は、青年とはいえ、魔王と呼ぶにふさわしい威厳があった。
    「哀れな魔王の花嫁は、精霊姫であるこの私。生涯をかけて、貴方のおそばに居ます」
     花嫁が、はらはらと涙をこぼすと、涙は魔王の体を包む結晶と同じ緑色の宝石になって、地に落ちる。
     かろ、かろ、かろん、と鳴るその音は、凛とした表情を崩さない彼女の、泣き声のようでもあった。
     
     花婿たる魔王は、人間の王子。
     花嫁たる彼女は、鉱石の精霊姫。

     この婚姻はすなわち、魔王の封印と破壊の儀式であった。

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