長谷部国重にとって、伊達光忠は初めての親友で、それから初めての恋人だった。甘く、強く、息の詰まるような純真は突然終わった──光忠が行方不明になったのだ。
つぶやいた瞬間、鼻の奥が熱くなった。この数日大人たちが光忠がいなくなったと大騒ぎしていたのだが、まるでテレビの中の良く出来た芝居のような気がしていたのだ。警察は家出と結論し捜査が打ち切られたあとも光忠を探し続けていた長谷部だが、やがて大学へ進み、就職し、大人になっていく。
もちろん長谷部も警察に話を聞かれたし、大人に見せたくない赤裸々なものは削除してからメールも見せた。捜索人のビラをつくりたいから写真がほしいと鶴丸に言われ、美容院の自撮りも渡した。
それら全てが実感のない車窓からの景色のようだった。ぼんやりと目に入れているけれど、その実なにひとつ見えていない、ただの風景。
そしてこの電話が風景を唐突に現実に戻した。
駅の雑踏、発車のメロディ、コンビニから漏れてくる新商品のCMソング、誰かを待っている制服の少女たちの笑い声。何もかも普段通りだ。
そんなばかな、と長谷部はつぶやいた。こんな理不尽なことがあっていいはずはなかった。
光忠と自分をつないでいた線が切れたなら完璧だった全ては崩壊してゆかねばならないのに、世界はなにひとつ変わらない。たったいま入線してくる電車には春のやわらかな光が降りそそぎ、散りゆく桜は吹雪のように舞う。
なのにどこにも光忠がいない。自分の横にも、改札にも、新しい学校にも、前のアパートにも、新しいマンションにも。
どこにもいない――自分と彼を包む世界のどこにも、どこにも──……
「僕のこと欲しがってよ。君が僕を欲しがってるってことが花よりも宝石よりもどんなものよりずっとずっと大切で、大事なんだよ。あんな嘘だらけの世界より僕が言うことのほうが真実だって、信じてほしい」
EX2追記
上巻がもうほぼ枯渇しているので下巻分と合わせて1冊にします。その分P数に比してのお値段は下げましたので上巻お持ちの方すみませんがご了承ください。
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