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https://text-revolutions.com/staffdaikou/products/detail/2703SoundHorizonの合同誌です。
季節をテーマに、春の小説1点+夏~冬のイラスト2点ずつ収録しています。
麻乃まめは、小説を担当しています。
サンホラキャラによる平安パロの物語で、Romanの双子が失踪する話になっています。
Vol.1(和)、Vol.3(花)も頒布しています。
※設定が同じ等の作品もありますが、続きものではありません。
【試し読み】
『春の訪れに鳴く』
これは、とある国に平安と呼ばれる時代があったお話。
ほう、ほう……
外から聞こえる、親鳥とは比べ物にならないほど拙いその声に、双子の姫君は耳を澄ませた。
――春になったら戻っておいで
冬の君はそう告げて、にこりと微笑んだ。双子にとってその言葉は絶対であったし、違えることのできない約束。是と彼女たちは答え、主人である冬の君に見送られて、この屋敷へとやってきたのだった。
ほう、ほけきょ
「鳴きましたわね」
「鳴いたわ」
双子の姫君は顔を見合わせて微笑む。額を近づけ、しばしその声を聞いていた。鶯は春の訪れを告げる、春告鳥。
***
「双子の姫君がいなくなった?」
焔の姫は暗い表情で頷く。床へと伸びる髪も乱れたまま、赤い髪も暗さを帯びているように見えた。袿を肩にかけ、脇息に力なく身体を預ける焔の姫の様子に、雪白の姫は深く息を吐いた。
「いつから?」
分かりませんと言うように、焔の姫は力なく首を振る。
「ふと、声をかけようと思ったら居なくて。でもそれがいつからなのか思い出せないのです」
あなたでもと問いかけようとして雪白の姫は慌てて口を噤む。不思議な力を持ち、夢見や怪異の類を解決するという彼女を更に追い詰めたところで、良い方向に向かうとは到底思えなかった。すっと、焔の姫君の頬に手を当てる。涙を拭った跡が痛々しく赤くなっていた。
「冬の君はなんて?」
「赤の君のお話では、冬の君もお姿が見えないそうなのです」
まあ、と雪白の姫が驚いた声を上げる。物思いに耽る雪白の姫との間に沈黙が訪れた。