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【ローファンタジー】【現代】The Departure of Short Story

  • 熱海-03 (現代)
  • でぱーちゃーおぶしょーとすとーりー
  • 梓野 みかん
  • 書籍|新書判
  • 90ページ
  • 300円
  • 2017/11/23(木)発行


  • 短編集第2弾。渾身の短編3本入り!
    短編集の中では話の数が少なめですが、ローファンタジー濃度が濃いめです!
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    以下、各話の冒頭です。
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    〇自動人形である従兄と送る、最後の夏季休暇…『Unforget-a-blue』

     聖堂の窓を、小さな光がゆっくりと横切る。空高く航行するのはきっと海岸行きの飛行船だろう、と鈍彦はぼんやりと目で追った。真っ青な空にセミのジリジリとした鳴き声が温度を加えて、よけいに暑く感じる。細長く、十字にはめられた窓の木枠に手をあてると、鈍彦はつい鼻歌を歌った。

     はるかにかすむ その途を
     いずこに行かむ おしなべて
     見送る夏のこもれびよ
     吾と君ばかりを染め分かつ…

     ゴホッ、と咳がでた。思いがけず大きく響いたために、聖堂の合唱団長がに鈍彦をするどく見咎めた。
    「リーダーがそれでは困るね。」
     聖堂では夏季休暇中の子供たちが集まって、各パートに分かれて合唱の練習をしている。ごく小さな少年合唱団ではあるが、古びた聖堂と歴史を同じくするくらいの伝統があり、この田舎町の名を少しく広めることに役立っていた。「碧羅の天使」とあだ名される少年たちの集まるこの聖堂には、合唱団の伝統を愛する人々までもがチラホラと集まって、今年の天使たちの習熟ぐあいを見定めにきている。聖堂の管理人であり少年たちを管理する合唱団長は、そんなご婦人がたが寄り集まっている聖堂のすみを一瞥してから、つきでたビール腹をゆらして鈍彦のもとへつかつかと歩いてきた。
    「おまえは今年で最後なんだから、身を入れろ。」
     はい、という返事に痰がからまる。団長はため息をついて、首元の青いリボンタイで顔の汗をぬぐった。合唱団のトレードマークで顔をふくのが団長の癖であり、子どもたちのものにくらべていつも一人色あせていた。団長なら天使の羽根で鼻もかめる、と言って下級生の団員を笑わせていたのは鈍彦の友人だったが、彼は退団して、もういない。その友人と同様に鈍彦も声変わりをむかえつつあることで、退団は目前となっていた。
    「すみません、朝から熱があるんです。」
    「早く言えよ、今日はもういい。」
    「ちゃんと治したいんで、二日ほど休んでいいですか。」
    「おまえ去年も夏風邪ひいてたよなあ、」ううん、と団長がうなって、色あせたリボンタイがあごの下を行き来する。
    「リーダーはもう下のやつに任せるから、来週の式典までにとにかく調子を整えてこい。」
     最後なんだから、と言って団長は鈍彦の肩を手早くたたくと、おおい、と大声を出して子どもたちにあれこれと指示を出し始めた。
     鈍彦は自分のリュックを手にとって、聖堂のはじから扉へ進んだ。見物に来ていたご婦人連の横を通り、扉を開けようとする鈍彦の背中に、一人の老婦人がそっと手を触れた。「天使ちゃん、またね。」
     白くて柔和なしわの刻まれた顔に、鈍彦は反射的にニッコリと笑い、深々とお辞儀をした。
    「みなさまに歌の恵みがあらんことを」
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    〇同窓会と、〝アユミちゃん〟の思い出…『ナウシカになりたくて』

     ダンゴムシが家にやってきた。
    「名前はね、〝だんご〟。」
     小学一年の娘は帰宅するなりそう言った。
     聞いてない、と私は思った。名前も聞いてなければ、授業で飼育していたダンゴムシを土日に家へ持ち帰ることなど、何も聞いてない。ダンゴムシ入りの虫かごを抱えたまま居間に上がろうとした娘を、私は一喝した。「家の中に入れないで!」
     むすっ、とした娘は名残惜しそうに、砂を敷いて落ち葉を入れた虫かごを持ち上げて下からながめたり、かごの小窓を開けてみたりしていたが、やがてしぶしぶと玄関の石畳に置いた。おやつちょうだい、と言う声も低く、ソファに身をあずける音も荒々しい。しかし凍らせたビニールジュースがほどよく溶けるころには、けらけらと笑ってテレビに向かっていた。
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    〇ばばと呼ばれる魔女と、料理番のヘイワースとの出会い…『ばばの鍋』

     ばばの鍋、といえば、ヘイワースである。
     彼の営む小さなパブの名前であり、パブを有名にしたメニューの名前がそれである。雑多な食材が濃いめの味付けでとろりと煮込まれていて実にうまい。安酒しかないのに長っ尻になるから狭い店内はたいていぎゅうぎゅうに混んでいる。
     晴れた夜には、テーブルとイスに見立てた木箱が軒先に並び、目の前にそびえる山と星空とを見上げて一杯やることもできる。山のふもとという、地の利を生かした演出は店主のたくましい商魂のなせるわざにも思えるが、ヘイワースにそのつもりはないようだ。木箱は、店の横に積まれていたものを店内からあぶれた常連客が勝手に使いだしたのがきっかけで、夏となれば外にいる客のほうが多いこともある。そんな状況にすばやく対応したのは腕利きのウエイターであるニコルで、銀のトレイを二つ、三つと巧みに操って注文をさばく彼の姿もまた、この店の名物と言えよう。
     ニコルは、国境戦争に従事した若い時分にヘイワースが作る行軍食と出会い、その味の虜となったことを語った。
    「いえね。ホラ、うっとこの大将は昔からああなんですけどね、」
     ニコルは人懐こい顔のしわをゆるませて、黙々と調理場で作業するヘイワースの、広くて四角い背中に目をやった。「こわもてでガタイもいいのに、なんで軍の料理番なんてやってるのか、不思議になっちまって。弓だってソリャア上手いもんですよ、今でもうちの食材は、大将がここいらの山で獲ってきたものばかりですからね。戦にもさぞ役立ったでしょうに、って言ったら、大将、まじめな顔して、“昔、俺の弓矢は魔法じかけだったもんでな”と、こうですよ!」

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    こたつ読書のお茶うけに。
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