彼が小説家を志したとき、そのワインがプレゼントされた。「あなたが大成したら、このワインを開けて飲みましょう」と恋人は言った。ワインは彼の本棚の上に置かれ、彼が小説家になっていくのを見守ることとなった。
ベートーヴェンのソナタ集に挟まれていたふるい手紙を、実家の自室で読み直すのはいかにも息苦しそうだったので、持って出てきてしまった。「もう何も考えられない。」で始まり「つかれた。」で終わる、遺書のような手紙を部屋から発見した「僕」は、手紙をもらった三年前の出来事を思い出す。少年時代のひりついた感情は次第に薄れていく。
部屋の本棚に並んだ楽譜を整理していて見つけた。グレーの封筒は記憶よりもよれよれになっていた。そのまま開かずに捨ててしまいたかったのだけれど、なぜかそうできなかった。
兄が帰ってきた日は特別おだやかで凪いでいた。晴れた日、妹が庭で洗濯物を干していると、白い軽トラックに乗った兄が知らせもなく帰ってきた。車を停めて降りた兄が、葬儀で着るような礼服の黒いスーツを着込んでいたので驚いた。かつての葬儀のときは兄もまだ学生だったから、スーツではなく黒い学生服を来て、お堂に正座したのを思い出した。出稼ぎから帰ってきた兄が持ち帰ったのは、自立する水死体だった。ひとりで留守番をする妹は水死体に名前をつけて飼い始める。妹は物言わぬ水死体を通じて孤独を紛らわそうとする。
ガルシアはいつもおもしろい話をしてくれた。きのう間違ってナイフで指を切って出た血がパンケーキに垂れて食べてみたらストロベリージャムの味がしたとか、学校へ行く途中の路地を普段と逆の方向へ曲がると空と地面が逆さになった町へ出るとか、猫に話しかけられて真剣に議論したら負かされてしまい涙していたときに慰めてくれたのが今の妻だとか。
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