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【ローファンタジー】金魚妓楼・和金亭

  • 鳴子-18 (ローファンタジー)
  • きんぎょぎろう・わきんてい
  • 瓜野
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 54ページ
  • 300円
  • 2019/11/24(日)発行
  • 人の世を追われた物の怪たちが此岸と彼岸の狭間に作った、物の怪たちの、物の怪たちによる、物の怪たちのための廓、裏吉原にある大見世「和金亭」を舞台にした連作短編集です。
     姐さんとの繋がりだけを支えに生きる禿、何もかも諦めてただ楽しく生きる二匹の花魁、座敷牢に繋がれた白痴のごとき陰間の生き様。
     全編書き下ろし。約15000字。※残部僅少※

    ■ 各話のあらすじ
    ・「序」
    ・「金魚鉢」 和金亭の禿、まこもは元はただの和金である。血生臭い物の怪としての生い立ちを引きずったまま、彼女は今日も生きる。琉金姐さんの選んだ禿、その事実だけを支えにして。
    ・「泡沫の夢」 和金亭の花魁、琉金とらんちゅうは同志である。この空虚な浮世を二匹で楽しく泳ぐ。歌を歌い、明日のことも昨日のことも考えず。
    ・「滝登り」 和金亭の陰間、出目金は白痴である。上客の鯉渕は彼に随分入れ込んでいたが、その感情の結末は思いも寄らない闇へと飲まれていく。
    ・「終」

    ■ 本文サンプル

    「序」(「序」「終」は対話形式(台本風)になりますが、その他のお話は三人称小説ですのでご留意ください)

     ちょいと、ちょいとそこの若旦那。ええ、あんたですよ。あんた、吉原は初めてかい?
     え、なんでわかったのかって?
     そりゃ、あんた、そんな不安そうな顔できょろきょろされちゃあねぇ。ああ、いやいや、咎めてるわけでも揶揄(からか)ってるわけでもないよ。そりゃ初見さんは戸惑いもしましょう。ここは吉原は吉原でも人間の作った吉原とはまったくの別物なんだからね。
     そう、ここは「裏吉原」。
     人の世を追われた物の怪たちが此岸と彼岸の狭間に作った、物の怪たちの、物の怪たちによる、物の怪たちのための廓(くるわ)。
     もちろん、人間さんだって大歓迎だけどねえ。実際、お客さんは半々、お女郎さんも半々ってとこかね。とはいえ、商売してる方のほとんどは物の怪だ。基本的な決まりは物の怪にとって都合のいいようになってるよ。
     たとえば、昼見世はなし。裏吉原の営業は夜だけさ。暮六ツの鈴の音とともにお女郎さんたちのお出ましだから、もう少し待つんだねえ。あとは……まあ、遊ぶのに金子(きんす)が必要なのは人の世もそうでなくても一緒だね。地獄の沙汰も金次第、浮世の金もあればあるほどいいってね。見たところ、あんたは身なりもいいし、その心配はなさそうだ。
     うん、あの通りの角とその斜め向かいと。暖簾が出ているだろう。あれが妓楼を紹介してくれる引手茶屋さ。どっちも信用のおける店だ。あとは案内人に任せておけば万事首尾よくいくとも。
     ええ、なに、お礼なんていいのさ。これは単なる老婆心……え? なんだって? それでも心配だって?
     あんた慎重だねえ。それでも江戸っ子かい? え? 違う? まあ……おのぼりさんなら心配するのも無理ないねえ。じゃあ、最後に懐にあった妓楼を見極める簡単な方法を教えとくよ。
     妓楼の格は格子でわかる。
     ……いやいや、冗談じゃなくてね。吉原の妓楼は籬(まがき)、つまり張見世と暖簾との間にある格子の形である程度どれほどの揚代(あげだい)かわかるようになってんのさ。格は三段階。一番下は惣半籬、格子が下半分の見世は小見世とおぼえときな。当然、お代も吉原の中では少なくて済む。真ん中は半籬、格子が四分の一ほど空いているのは中見世というわけさ。それから一番上が惣籬、全面朱塗りの格子が大見世。これは逆にわかりやすい。なんて言ったってこの裏吉原には三軒しかないからね。
     え? 話の種にどんな見世か知りたい?
     知りたがりだねえ。まあ、構わないけど。
     ええ、ええ、裏吉原の誇る三大大見世、お話ししましょう。
     一つ、この仲の町通りのどん詰まり、名実ともに裏吉原の顔、絢爛豪華な花魁を多数抱え、一説にこの吉原を作ったとも言われる物の怪が楼主を務めますは大妓楼「芦屋(あしや)」。一つ、恐ろしげな屋号とは裏腹に明朗会計、親切丁寧、心優しき楼主と女郎上がりの奥方が二人三脚で営むは京町一丁目「地獄楼」。一つ、最後は変わり種、灯るは八間(はちけん)ならぬ金魚の群れ、女郎連中はみな美しきひれ持ちの妖怪、夢か現か竜宮城か、江戸町二丁目「和金亭(わきんてい)」。どの見世も錦の衣で着飾った天女のごとき花魁と愉快な座敷芸にきらびやかな楽の音、三つ布団の極楽浄土をお約束……ってとこかね。
     いやだい、褒めても何も出やしないよ。さあ、もう行った行った。清掻(すががき)が鳴るにはまだあるけれど、ごゆっくり、とっぷり、この吉原を楽しんでおくんなまし。
     ええ、もう、ほんとに。
     「鱗」に触れてしまわぬよう、それだけはご注意なさって、ね。






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