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【純文学】渦をとびこえて

  • 有馬-13 (純文学)
  • うずをとびこえて
  • 幅観月
  • 書籍|B6
  • 46ページ
  • 300円
  • 2018/7/28(土)発行
  • 「わたしは壁にぴたりと耳をくっつけた。ひやん、と冷たい感触で、世界が半分にわかれる」


    わたしと千紘をつなぐ、ベランダの手すりにくくったロープ。昼休みに突如として生まれた台風と、ちぎれた胸ポケット、校舎の柱のささくれのこと。


    *(以下、冒頭部分)

    いつもよりワンフレーズ長いチャイムが、休み時間と午後の授業の境目をまたぐ。私は行方不明になった理科のワークを探して、一冊一冊、積み上がった置きベン教科書たちをのけていた。

     背中にがん、と何か当たり、勢いでロッカーに頭をぶつけた。すぐに走り回っていた江波のしわざとわかる。振り向くと、奴はすでにツリ目の鉄平と教卓を挟み、フェイントをかけあっているところだった。

    「やだ江波、最低」

     となりにいた鈴香が私の代わりに声をあげる。頭のてっぺんに手のひらを当てたらゴワゴワになっていて、髪を結び直しにトイレへ行きたい、と思った。

     千紘がもぞもぞと席を立ったのはそのときだった。江波が上手いこと鉄平をかわして、千紘の薄い胸を、どん、と押しのける。千紘はよろめいて足を絡ませ、自分の椅子を倒した。三、四人で話していた女子たちが会話を途切れさせることなくそれを避ける。

    「やめろよ」

     表情にはまだ笑顔が残っている。千紘はかがんで椅子を立て直した。そこへ鉄平に先回りされた江波がきびすを返す。

     いやな予感がした。


    台風、暴力、中学生のおはなしです。


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