こちらのアイテムは2019/10/12(土)開催・第9回 Text-Revolutions(中止)にて入手できます。
くわしくは第9回 Text-Revolutions(中止)公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

台風接近のため、開催は中止となりました。詳しくはText-Revolutions準備会のページをご参照ください。

On Being an Angel

  • C-13 (ライトノベル)
  • おん びーいんぐ あん えんじぇる
  • 八束
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 180ページ
  • 700円
  • 2018/8/19(日)発行

  • 永遠にうしなわれてしまったものをめぐる――
    2017年から2018年にかけて寄稿・頒布したアンソロジー、合同誌、個人誌から4編を収録。

    ▽収録作
    「とこしえに赤い花は咲いているか」 :少女は異形と死地への船路をゆく
    「ガブリエル」 :泥炭地帯の片隅で繰り広げられる家族の物語
    「Eureka」 :父のペニスとともに少年はサーカス団と旅をする
    「竜の腹」 :中米風幻想小説。青年は「運命のつがい」を求めて喋る金剛鸚鵡と南を目指す
    ======================================

     明くる夜、サシュはトラックの荷台の奥、錆びた鏡台を前に行儀よく座っていた。未成熟の少年らしい白く痩せぎすの背中に、湾曲した背骨のふくらみが隆起している。彼はショッキング・ピンクのチュチュを履き、なめした豚革の白いコルセットで腹部を絞めつけ、白いタイツ、いつもと同じトゥ・シューズといういでたちだった。曇った鏡にぴったりと顔を寄せ、年相応のみずみずしい肌に白粉を叩きこむ最中である。

     蒼ざめたまぶたに孔雀色の粉を乗せ、濃茶色のアイラインを引く。赤いリップを、皮がすり切れるくらい唇に塗りこめた。ピンクベージュの粉で頬を染め、乾燥しきった髪をオイルで揉み、首には残り少ない香水を振った。そして眼前に映し出された顔を―サシュは食い入るようにみつめる。

     まったく奇妙なことに、そこには生前のヴラドと瓜二つの顔がある。

     サシュは美貌の持ち主ではない。凡庸で、印象に残らない顔立ちをしている。しかしひとたび化粧をしてみれば、その面立ちはぞっとするほど父親に似てしまうのだった。そして父親の顔になると、生来の暗愚が嘘のように溌剌として、よく口の回る―表情豊かな少年に様変わりするのだった。

     たくさんの飴が入った籠をひっつかみ、サシュはがらんとしたトラックを飛び降りた。子ウサギが跳ねるように軽やかに、踊るように砂浜への道を駈け下りる。眼下に広がる夜の海辺には無数の人影があった。内側からオレンジの明かりを灯した天幕があり、砂の上に置いたカンテラの光がそこに至る長い道を築く。人の行列に飛び込むと、真珠色の歯を覗かせて、サシュは誰に対しても明るく、そしてすこしだけ婀娜(あだ)っぽく笑いかけた。彼の抱えた小さな籠のなかには色とりどりの飴菓子がある。ショーを待つ人々、鑑賞をし終えた人々にそれらを売るのが―「食い扶持(ぶち)稼ぎ」のひとつ。

     飴菓子は相場よりも高価だが籤(くじ)つきで、当たると天幕のなかでいろいろな物品と交換することができた。異国製のディルドであるとか、ロマの作った惚れ薬であるとか、大抵は質も趣味も悪い代物で、それが客に好評だった。子どもたちがこぞって手を伸ばしてくるのに、サシュは手際よく金銭と飴を交換して、客の呼び声に答えてはくるくると人の間を歩き回った。ふんわりとしたチュチュの裾を揺らし、下卑た言葉をかけられては頬を赤らめて笑う。そして求められれば、恥ずかしげもなく見知らぬ男女にキスをした。

    「君を買う飴は?」

     サシュは悪戯っぽく微笑む。「このチュチュと同じ色」

    そう囁いて、籠の底に手を入れる。

    (『Eureka』より一部抜粋)

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