こちらのアイテムは2019/10/12(土)開催・第9回 Text-Revolutions(中止)にて入手できます。
くわしくは第9回 Text-Revolutions(中止)公式Webサイトをご覧ください。(入場無料!)

台風接近のため、開催は中止となりました。詳しくはText-Revolutions準備会のページをご参照ください。

砂の棺 Before すぎ去りし過去の物語

  • B-16 (ハイファンタジー)
  • すなのひつぎびふぉあすぎさりしかこのものがたり
  • 天海六花
  • 書籍|新書判
  • 112ページ
  • 600円
  • http://lyufayran.holy.jp/
  • 2019/8/25(日)発行
  • 「砂の棺」シリーズ 外伝2巻 キャラクタースポット短編集
    本編完結前や後の物語、主役各4人のそれぞれの過去の物語を紡いでゆきます。

    ※ 短編集ですが、本編既読ありきな内容となりますので、単独でもお求めいただけますが、内容(キャタクターの生い立ちや性格等)が少々分かりにくいと思われます。
    ぜひ本編未読の方は、本編から「砂の棺の中の物語」に触れてみてください。(*^^*)

    関連作(webアンソロ)
    アンソロ「嘘」→ http://text-revolutions.com/event/archives/5416 
    アンソロ「花」 → https://text-revolutions.com/event/archives/8992
    アンソロ「imagine」→ https://text-revolutions.com/event/archives/10446
     
    【お詫び】一部のページの組版をミスして大変見づらくなっております。 乱丁ではございませんので、お取替えはできません。(全て同じなので) 大変ご不便をお掛けしますが、どうかご容赦ください。

    ------------------------------------------------------------------------------------
     ミューレンの長い冬の、とある日の出来事。
      町の小さな雑貨屋の店休日、いつもの通りの幸せな四人のプチティーパーティー。だが外は真冬で凍えるほど寒く、変わり映えしないカルザスとレニーの店の、狭いキッチンでの開催だった。
      ホリィアンの焼いてきたケーキと、レニーの用意したお茶。そしてカルザスがキッチンを片付け、パルはうろちょろしていただけの、即席パーティー会場だ。つまり、いつも通りのお茶の時間と変わりない。
      それでも、ホリィアンのケーキはいつも通り甘く美味しく、さっぱりした風味の温かいお茶にはよく合う。談笑しながら、ケーキをつつき、お茶を飲む。
      ストーブの薪がパチリと弾ける、和やかで穏やかな昼下がり。それは充分に楽しいひとときだった。
       
     だが少し妙な出来事が起こっている。  先程からレニーの膝の上に座ったパルが、時折不自然に体をテーブルの外側へと乗り出しているのだ。大好きな甘いケーキを頬張っては、不自然に身を乗り出して、何かを見ようとしている。
     「どうした、パル?」
     「うみゃ? なんにもないよー」
     「ケーキ落としちゃったの?」
     「おとしてないー。パルぜんぶたべた!」
      パルは小さな胸を反り返らせ、自慢するかのように宣言する。秋頃に年齢を一つ重ねた分、相変わらず不器用な手先ながらも、食べこぼしは少なくなったのだ。野菜嫌いも、少しずつ、ほんの少しずつ、克服できている。そして甘い物は相変わらず大好きなままだ。
     「でもお前さ。なんかさっきから、ずっとカルザスさんの方、見てるじゃん?」
     「僕、ですか?」
      カルザスはレニーに指摘され、そこでようやく自分に向けられる小さな視線に気付いたようだ。
      確かにレニーが言うように、先程からパルはレニーの膝の上から、不自然に身を乗り出してテーブルの端に体を傾けては、対面側に座っているカルザスをのぞき見ている。顔ではなく、主に腰の辺りを。
      レニーは仏頂面になり、パルを背後から抱き締めた。まるで宝物を取られまいとする仕草だ。
     「パルの興味が、おれよりカルザスさんに向かってる気がする」
     「気のせいでしょう?」
     「いいや。さっきからこいつ、カルザスさんの方ばっか見てるからね」
     「……何か変なものでも付いてますかね?」
      カルザスは自分の体を見下ろすが、いつも通りの冬物の厚手のシャツに厚手のズボン。何も妙なところはない。外を歩いた訳でもないので、雪や泥も付着していない。
     「おれが話しかけても、パルはカルザスさんの方を見てる時がある」
     「パルだってたまにはよそ見しますよ。レニーさん」
      ホリィアンはくすくすと笑い、のんびりと、砂糖を入れたお茶を口にする。
      自宅ではパルの面倒を見る担当である彼女だが、カルザスとレニーの元へと遊びに来た日は、完全にパルをレニーに預けてしまっている。彼自身もレニーから離れたがらないのだから、それも必然といえよう。
     「カルザスさん……」
     「な、なんでしょう?」
     「……おれから……パルを取り上げる気だろ?」
     「どうしてそう、思考が一足飛びに変な方向にいっちゃうんですか」
      カルザスは苦笑するしかなかった。自分は子どもが嫌いではないが、扱いは得意ではない。それはレニーも分かっていると思っていた。
      むろん、パルを溺愛しているレニーから、本人の意思を無視してその小さな幼児を奪い取ろうなどと、一切思ったこともない。
     「そんな意地悪、考えたこともありませんよ。パルさんはレニーさんに一番懐いてるじゃないですか」
     「そうだけど……あ、またカルザスさん見てる!」
      レニーの膝の上で、パルはまたもや身を乗り出し、カルザスの方をのぞき見ている。
     「おい、パル。お前はおれとカルザスさん、どっちが好き?」
     「ふあ? パルねー、レニーだいすきだおー」
      にっこりと笑って即答するパル。だが彼は納得しない。
     「じゃあなんでさっきから、カルザスさんの方ばっか見てるんだ?」
      膝の上の小さな幼児をじっと見据え、レニーは真顔で問いかける。
     「直接聞くという手段に出ちゃいましたね」
     「疑惑が晴れるといいのですが……」
      ホリィアンはなんとなく、小さな波乱がありそうだと、目を輝かせている。やはり変わり映えのしないお茶会に、何か別の刺激も欲しかったのだろう。
      カルザスは自分に向けられた疑惑を晴らしてもらいたいがため、パルの返答を固唾を飲んで見守っている。
     


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