「砂の棺」シリーズ 外伝2巻 キャラクタースポット短編集
本編完結前や後の物語、主役各4人のそれぞれの過去の物語を紡いでゆきます。
※ 短編集ですが、本編既読ありきな内容となりますので、単独でもお求めいただけますが、内容(キャタクターの生い立ちや性格等)が少々分かりにくいと思われます。
ぜひ本編未読の方は、本編から「砂の棺の中の物語」に触れてみてください。(*^^*)
関連作(webアンソロ)
アンソロ「嘘」→
http://text-revolutions.com/event/archives/5416 アンソロ「花」 →
https://text-revolutions.com/event/archives/8992 アンソロ「imagine」→
https://text-revolutions.com/event/archives/10446 【お詫び】一部のページの組版をミスして大変見づらくなっております。 乱丁ではございませんので、お取替えはできません。(全て同じなので) 大変ご不便をお掛けしますが、どうかご容赦ください。
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ミューレンの長い冬の、とある日の出来事。
町の小さな雑貨屋の店休日、いつもの通りの幸せな四人のプチティーパーティー。だが外は真冬で凍えるほど寒く、変わり映えしないカルザスとレニーの店の、狭いキッチンでの開催だった。
ホリィアンの焼いてきたケーキと、レニーの用意したお茶。そしてカルザスがキッチンを片付け、パルはうろちょろしていただけの、即席パーティー会場だ。つまり、いつも通りのお茶の時間と変わりない。
それでも、ホリィアンのケーキはいつも通り甘く美味しく、さっぱりした風味の温かいお茶にはよく合う。談笑しながら、ケーキをつつき、お茶を飲む。
ストーブの薪がパチリと弾ける、和やかで穏やかな昼下がり。それは充分に楽しいひとときだった。
だが少し妙な出来事が起こっている。 先程からレニーの膝の上に座ったパルが、時折不自然に体をテーブルの外側へと乗り出しているのだ。大好きな甘いケーキを頬張っては、不自然に身を乗り出して、何かを見ようとしている。
「どうした、パル?」
「うみゃ? なんにもないよー」
「ケーキ落としちゃったの?」
「おとしてないー。パルぜんぶたべた!」
パルは小さな胸を反り返らせ、自慢するかのように宣言する。秋頃に年齢を一つ重ねた分、相変わらず不器用な手先ながらも、食べこぼしは少なくなったのだ。野菜嫌いも、少しずつ、ほんの少しずつ、克服できている。そして甘い物は相変わらず大好きなままだ。
「でもお前さ。なんかさっきから、ずっとカルザスさんの方、見てるじゃん?」
「僕、ですか?」
カルザスはレニーに指摘され、そこでようやく自分に向けられる小さな視線に気付いたようだ。
確かにレニーが言うように、先程からパルはレニーの膝の上から、不自然に身を乗り出してテーブルの端に体を傾けては、対面側に座っているカルザスをのぞき見ている。顔ではなく、主に腰の辺りを。
レニーは仏頂面になり、パルを背後から抱き締めた。まるで宝物を取られまいとする仕草だ。
「パルの興味が、おれよりカルザスさんに向かってる気がする」
「気のせいでしょう?」
「いいや。さっきからこいつ、カルザスさんの方ばっか見てるからね」
「……何か変なものでも付いてますかね?」
カルザスは自分の体を見下ろすが、いつも通りの冬物の厚手のシャツに厚手のズボン。何も妙なところはない。外を歩いた訳でもないので、雪や泥も付着していない。
「おれが話しかけても、パルはカルザスさんの方を見てる時がある」
「パルだってたまにはよそ見しますよ。レニーさん」
ホリィアンはくすくすと笑い、のんびりと、砂糖を入れたお茶を口にする。
自宅ではパルの面倒を見る担当である彼女だが、カルザスとレニーの元へと遊びに来た日は、完全にパルをレニーに預けてしまっている。彼自身もレニーから離れたがらないのだから、それも必然といえよう。
「カルザスさん……」
「な、なんでしょう?」
「……おれから……パルを取り上げる気だろ?」
「どうしてそう、思考が一足飛びに変な方向にいっちゃうんですか」
カルザスは苦笑するしかなかった。自分は子どもが嫌いではないが、扱いは得意ではない。それはレニーも分かっていると思っていた。
むろん、パルを溺愛しているレニーから、本人の意思を無視してその小さな幼児を奪い取ろうなどと、一切思ったこともない。
「そんな意地悪、考えたこともありませんよ。パルさんはレニーさんに一番懐いてるじゃないですか」
「そうだけど……あ、またカルザスさん見てる!」
レニーの膝の上で、パルはまたもや身を乗り出し、カルザスの方をのぞき見ている。
「おい、パル。お前はおれとカルザスさん、どっちが好き?」
「ふあ? パルねー、レニーだいすきだおー」
にっこりと笑って即答するパル。だが彼は納得しない。
「じゃあなんでさっきから、カルザスさんの方ばっか見てるんだ?」
膝の上の小さな幼児をじっと見据え、レニーは真顔で問いかける。
「直接聞くという手段に出ちゃいましたね」
「疑惑が晴れるといいのですが……」
ホリィアンはなんとなく、小さな波乱がありそうだと、目を輝かせている。やはり変わり映えのしないお茶会に、何か別の刺激も欲しかったのだろう。
カルザスは自分に向けられた疑惑を晴らしてもらいたいがため、パルの返答を固唾を飲んで見守っている。