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【BL】【ローファンタジー】金目当てですから

  • B-26 (ローファンタジー)
  • かねめあてですから
  • 瑞穂 檀
  • 書籍|B6
  • 40ページ
  • 100円
  • 2009/8/23(日)発行
  • ソフトBL。ある雨の日、翼少年は1人の男を拾って……
    さほどエロくないファンタジー
    シリーズ物ですが、一話ごとに区切られています。

    ※コピー本です。
    印刷所で再販をかける予定があるような、ないような……考え中です。印刷所製本の場合は値段が上がる予定です。
    参考試し読み⤵

    第一話 金目当てですから

     駅を出ると、雨が降っていた。すぐに止むだろうか? それとも、走って帰ろうか。

     佐伯翼がひさしの下で思案していると。

    「た、たすけてください……」

     弱々しく助けを求める、男の声。見れば、金髪を長く伸ばしたニーチャンが、泣きそうな顔で翼を見ていた。外人だろうか? 身長は翼より、頭ひとつ分くらい高い。

    「ノーノー」

     思わず断りを言ってから、相手が日本語をしゃべっていたと気が付く。

    「あれ、使いたいです。コイン入れて、鍵閉める」

     男の指差す先には、コインロッカー。こんなに日本語が話せるのに、ロッカーの使い方はマスターできなかったらしい。

     翼は元来不親切な人間だったが、雨で足止めを食らって暇だったので、男と一緒にロッカーの前に立つ。男がロッカーに突っ込んだのは、大事そうに抱えていた風呂敷包みだった。

    「金入れればいいんだよ、ここに」

     指を指して教えてやるが、男は首を振った。

    「お金、無いのです。うちからまだ届いていなくて、僕は使えないのです」

     ロッカーの使い方が解らないのではなく、金が無くて使えないだけだったらしい。翼は原則的に冷淡な人間だったが、男の様子があまりに情けなかったので、ポケットから百円玉を三枚出して投入。鍵を引っこ抜いて、男に放った。

    「ありがとうございます!」

     涙を浮かべて礼を言う男に、翼は背を向けた。雨はまだ降っていたけれど、感謝されるのが鬱陶しかった。だから、ひさしの下から抜け出して、家路に着いたのだった。

     

     義父との折り合いが悪く、翼が家を飛び出して一人暮らしを始めてから、一ヶ月が経つ。母は未婚で翼を産み、その後、義父と知り合い結婚した。本当の父について、彼女は語らないけれど、翼は知っている。実父が人ならぬ者だということを……。

     狭いアパートに戻り濡れた髪をタオルで拭っていると、携帯電話が震えた。着信には『あいつ』と出ている。『あいつ』は実父だ。翼は眉を顰めたが、電話を取った。

    「なんだよ」

     無愛想な応対に、電話の向こう側は涼しい声で話しかけてきた。

    「金は欲しいか?」

    「はぁ? 小遣いくれんの?」

     義父はとことん翼が嫌いらしく、更に母は義父の顔色を気にするので、仕送りはなかった。彼らがくれるのは、高校の学費のみである。

    「金を手に入れる、機会をやる。いいか、これから五分後に、玄関から外に出るのだ。駅に向かって歩いていくと途中に公園があるだろう? そのベンチに男が座っているから、傘を差しかけてこう言え。俺でよかったら力になります、とな」

     意味がわからない。

    「それで金が貰えるってのかよ」

    「男が金を持っている。どう引き出すかは、お前次第だがな……」

     ぷつりと、通話が切れた。実父は翼から電話をかけても、いつだって無視を決め込む。だから今回も、折り返したって無駄だろう。質問も要望も『あいつ』は受け付けないのだ。

     金は欲しい。アパートの部屋は殺風景で、カサカサに乾いて見えた。

     五分待って、翼はアパートを出た。ビニール傘を差して、公園を目指す。

     小さな公園に子供たちの姿は無い。茶色いベンチで、しょんぼりと肩を濡らしながら座り込んでいる男だけが、そこにいる人間だった。

     翼は男から少し離れたジャングルジムの脇で、足を止める。その男は、駅で翼に三百円を無心した奴だ。そんな奴が金を持ってるなんて、『あいつ』は何を言っているんだ?

     けれど、『あいつ』は人ならぬ者だ。母の結婚もその腹から弟が生まれることも、予言して的中させたのだ。だったら、あの男から金が取れるというのも、本当かもしれない。

     翼は男に歩み寄り、傘を差しかけた。男ははっと顔をあげ、翼を見つめる。深いブルーの瞳だった。


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