「……は? 俺が人殺し?」
貧民街ノートルヴィルの薬物売買人・ヤニクから齎された不穏な情報。
陸軍元帥ペルグランの邸宅を訪れる男装の情報将校・シュゼット。
ノートルヴィルの実直な警察官・セヴラン。
柔和な微笑みの裏に狡猾さを隠し持つ警察署長・ロカンクール――
百科事典『万象の鑑』の行く手を遮る、数々の思惑。
〈帝国〉陸軍の思わぬ計画により、帝都から遠く離れた極北の地・エアナへ発つこととなったジル・デュプレ。およそ一ヶ月に渡る責任者の不在で、『万象の鑑』の編集は停滞を余儀なくされてしまう。
そこへ襲い来る、さらなる苦難――執筆者の筆頭であるウーヴェが、殺人犯として投獄されたのだ!
このまま無実の罪に甘んじれば、あとには処刑が待ち受けるばかり。仇敵を巡る陰謀が明らかになったとき、ウーヴェは……。
◆序盤の試し読みができます
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http://omni.verse.jp/tome02_sample.pdf】
◆主要人物をピックアップした60秒CM
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https://twitter.com/prabhasa/status/1066296983155949568】
百科事典と革命を巡るファンタジー小説、第二巻です。2018年11月コミティア126の新刊でした。
作品の世界や登場人物をご紹介した第一巻『序論』に引き続き、第二巻からは舞台や人間関係がぐっと広がってゆきます。
ノタウィア・マニスの一時代に繰り広げられる物語を、ぜひお楽しみいただけると幸いです。
===【苦悩するチート鑑賞会エントリー(No.009)】===
(本文より抜粋)
「済まん、ユベール。煙草を切らした」
「もう……残りが少なくなったら言うように頼んでいたでしょう? これから雨が降り出しそうなのに」
ユベールが眉を下げて不満げに零す。煙草はジルの絶え間ない不調を紛らせる必需品の一つである。食器を仕舞い終えるなり外出の支度を始めるユベールを、ジルが止めた。
「自分で買いにゆくよ」
「だめ。あなたを独りで行かせるなんてとんでもない」
「知らない場所じゃあない」
「ウーヴェさんが吸ってるような、普通の煙草なら僕だって何も言わないよ。とんでもない値段を吹っ掛けられて、泣きながら事典の資金に手を付けようとしたこと、忘れたとは言わせないからね」
ジルの方も、まさか忘れていたとは言えなかった。(p11)
「……僕だって、本当は行かせてやりたいよ。僕がついて行ったっていい」ユベールが呻く。「でも、今のあなたに長旅は無理だ。心にも身体にも、負担が大きすぎるよ」
(中略)それは哀願に近かった。過酷な状況にあるのはジルのみならず、ユベールやウーヴェも同じだった。〈帝国〉の職務に従事する裏で、『万象の鑑』の三桁に上る執筆者の状況を把握し、彼らの身の安全に留意しながら原稿や報酬のやり取りを行うことには、常に心労が付き纏った。
「それでも」
ほとんど涙声で、ジルが唇を震わせた。
「行きたいんだ……」(p32)
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