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【ハイファンタジー】休日は秘密の宴でわらいましょう

  • B-35 (ローファンタジー)
  • きゅうじつはひみつのうたげでわらいましょう
  • 志水了
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 120ページ
  • 500円
  • http://autumnwater.org/kyuzit…
  • 2018/2/11(日)発行
  • 領主だけが知る秘密。それは――宴会!?

    城壁に囲まれた都市を治める領主たち。都市の主である領主たちは、毎日を優雅に、かつ忙しく暮らしていた。
    だがたったひとつ、領主たちは誰にも明かせない、秘密を持っている。
    それは――宴会!?
    とある町、ツィオーラの領主ジーノの秘密をめぐる、軽やかコメディなファンタジー。

    以下、抜粋です。

    ー・ー・ー・ー・-・-・-・-・ー・ー・ー・ー・-・-・

     一、

     深い森の中にそびえ立つ、堅牢な城壁。堅牢な城壁は日々の生活を営む人々を敵から守っている。いわゆる、城塞都市だ。
     そんな城塞都市の中心部。そこにはひときわ目立つ城がある。そこに住むのは城塞都市の主である領主だ。どの町にも主がおり、国の王が住む大都市もある。
     そんな城塞都市の主である領主たちは、毎日を優雅に、かつ忙しく暮らしていた。
     だがたったひとつ、領主たちは誰にも明かせない、秘密を持っている。
     それは――。

    「あ――、今日も駄目だったぁぁぁぁ」
     あちこちから話し声が飛び交う部屋のなか、ひとりの男の情けない声が響いていた。その声はすぐに喧噪にまぎれ、消えていく。
     薄暗い夜の闇は、各卓に置かれたランプの灯りが、かき消しているようだった。それでも少し離れた先は薄暗くてよく見えない。
     薄暗い酒場の一角で、どっと笑いが起きた。きっと酒に酔った誰かが面白いことを言ったのだろう。
     そんな、ありふれた酒場の夜だった。
    「それ、もう五回目だけど」
     情けなく声をあげた男――ジーノは、テーブルに突っ伏していた。そんなジーノの頭上で、あきれたような声が聞こえてくる。
     ジーノが顔をあげると、向かい合うようにして、ひとりの男が座っていた。年頃はジーノと同じ、二十半ばぐらいの若さだ。酒の入った杯を持つ男は、どこか鋭さをもつ栗色の瞳を向けてくる。ランプの灯りに揺れる目は細められ、楽しそうであるが、奥には武人と思しき鋭さが残っていた。
     隠しきれない鋭さのとおり、男が武人であることをジーノは知っている。だがごく一般的な髪の色のせいだろうか、鋭さは綺麗に隠されていた。ジーノなぞ、いかにも位の高そうな金髪に碧眼なので、どれだけ頼りなげな見た目でも、平民と同じ服をまとっても、雰囲気を隠すのが難しいのだ。うらやましい。
    「それはわかってるよぉぉぉシルヴィオォォでも誰にも話せないから五回目になってしまうんだよぉぉぉ」
    「あーはいはい、とりあえず飲め飲め」
     ジーノの情けない嘆きに、男――シルヴィオは、ジーノの傍らに置かれていた杯を持ち上げて、そして中身がほとんど無いことに気がついたらしい。
     瞳と同じ栗色の髪の毛を揺らして、厨房へと首を向ける。
    「こっちに酒を持ってきてくれ!」
     シルヴィオの声に応じて、厨房の奥から軽やかな声がかえってくる。ほどなくして、なみなみと酒を注がれた杯を持って、店の者が現れた。
    「お待ちどおさま。……今日はあの人はいないの? あの黒髪の殿方」
    「ああ、忙しいんじゃないかな」
     シルヴィオは軽く肩をすくめながら、カップを受け取っていた。店の者はそうですか、と頷きながらもどこか納得していない顔である。だが話を続けることもなく、奥へと引っ込んでいった。
    「ほら、飲め」
    「うー、ありがたき」
     ジーノは杯を受け取って、ひと息に喉へと酒を流し込んだ。口のなかに、苦みの強い味が広がる。喉がカッと熱くなり、ふわりと頭が揺れた。
     安酒独特の味だ。いつも飲んでいる葡萄酒に比べれば、ずっと劣る味わい。それでも時々無性に飲みたくなる味でもあった。
    「それで? 今日もまた嫁さんと話せなかったって?」
     おとなしく杯をかたむけていたジーノに、シルヴィオが問いかけてくる。とたんに、昼間の出来事がよみがえってきた。恨みがましい気持ちでシルヴィオを見るが、シルヴィオはひどく楽しそうな顔を崩さないままだ。
    「……女性からもてはやされるシルにとっては、そりゃあ気楽な話なのかもしれないけど、こちらは社会問題一歩手前なんだよ」
    「女に人気なのは、ジーノだってそうだろう? 『ツィオーラ大聖堂の麗しき主』っていう二つ名までつけられてるそうじゃないか」
     シルヴィオは声をひそめて口にする。騒々しい酒場ではきっとまわりに伝わることなどないだろうとは分かっていても、ここでそれを聞くのは、ひやりとするものだ。
    「シル。ここでは私たちはごくごく普通の民なのですよ。少なくとも、見た目は」
    「そういうお前こそ、口調もどってんぞ」
    「う」
     シルヴィオに指摘され、ジーノは口ごもっていた。ごまかすために、もう一度杯を傾ける。やられたままでは悔しい。杯を傾けながらも、酔った頭を回転させていた。
     そんなジーノをどう思ったのか、シルヴィオはカップを手にしたまま、口の端を上げる。
    「気にすんな。皆酔っぱらっていて、誰もまわりのことなんて気にしちゃあいないさ」
    「……でも」
    「なぁに。ここは俺たちみたいな奴らが集まるために、作られた酒場なんだぜ。少しばかり何かしたって、平気だって」
     シルヴィオは快活にわらった。そうして笑っているさまは、平民の服をまとっていても領主らしい高潔さがにじみでているように感じられるのだ。
     シルヴィオの名は、シルヴィオ・E・ベッカーリア。
     この酒場のある城塞都市から、離れたところに位置する城塞都市、ベッカーリアの主である。
     そしてジーノ――ジーノ・Y・ジェレリロ。彼もまた、ベッカーリアからほど近いところにある町、ツィオーラを治める領主であった。

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