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【ローファンタジー】忘却のブルー

  • B-35 (ローファンタジー)
  • ぼうきゃくのぶるー
  • 志水了
  • 書籍|文庫判(A6)
  • 228ページ
  • 1,000円
  • 2018/7/16(月)発行
  • 夏空を泳ぐさかな。記憶に残っているのは、ただ、それだけだった――。

    終業式の日。高校生の千仁(ちさと)は写真部の部室で、顧問の諸泉(もろいずみ)とOBの那智(なち)がとある計画について話し合っているのを聞いてしまう。それは、怪奇現象が起きているという噂の学寮に、写真部の合宿という名目で二人、泊まり込むというものだった。
    その怪奇現象は、諸泉と関連があるらしい。
    まさに合宿をやりたいと申し出ようとしていた千仁は、どうしても気になってしまい、同じ部員の政志(まさし)と共に諸泉を追いかけ、学寮へとたどりつく。
    だが、そこでは「魚」が夏空を泳いでいて――。
    失われた記憶をめぐる、切ない現代ファンタジー。


    カクヨムで連載しているものをまとめ、加筆修正したものになります。

    装丁は小口染め・表紙フルカラーカバー・箔押しです。

    以下、冒頭サンプルです。

    ―・―・―・―・―・―・―・―・

     青年は何度も呼びかけてきていた。それをずっと無視していたので、次第に背中からの声は大きくなってくる。
     声があまりに大きく、我慢できなくなった千仁は、後ろへと振りかえった。
    「ちょっと、大きい声あげないでよ」
     野内千仁はコンクリートの塀に隠れるように、しゃがみこんでいた。
     千仁のすぐ後ろ、律儀にしゃがみこんでいる少年――大迫政志は、色素の薄い瞳を苛立ちに染めている。茶の混ざった髪が、そよりと潮風に揺れていた。
    「大きい声だすなって、いつまで隠れるつもりだよ。いつかは先生達に気がついてもらわなきゃいけないだろ」
    「そうだけど、こう、怒られないタイミングを見てるの」
     政志はあきれた声音ながらも、声をひそめてくれていた。政志の言っていることはもっともなのだが、世の中、そんな簡単にいくことなどないのだ。
     千仁はコンクリートの塀へと向き直ると、そうっと顔だけを塀から出した。
     背の低い塀の向こうには、何台か車を停めることのできるスペースがあり、そして奥には、白と水色の建物があった。屋根が平らな四角い建物で、白の壁に、屋根にあたる部分には水色の線が引かれている。
     千仁がへばりついている塀には、看板が掲げられていた。そこには笠川大学付属高等学校学寮と書かれている。ここは、千仁たちが通っている高校の学寮、宿泊することができる研修施設だ。
     学寮の前には、ふたりの男が立っていた。千仁にとっては見慣れた背中である。
     ちょうど入り口の前に立ち、学寮を見上げて話し合っているようだった。
     ここまで、運よくこっそりとふたりを追ってくることができた。だが、いつまでも潜んでいる訳にはいかない。これからはふたりと話さなければならないのだ。ひとり――白いシャツを着た男は許してくれそうだが、もうひとりは難しそうだった。
    「怒られない訳ないだろ……はぁ、なんで俺まで……」
     千仁の言い訳に、背中から大きなため息が聞こえてくる。政志はあきれているような、ふてくされているような声を上げていた。
    「じゃあついてこなくていいじゃない」
     政志がこんな調子なので、千仁はあきれてしまう。
     思わず口にした言葉に、政志の色素のうすい瞳が、ゆらゆらと揺れていた。どうやら困っているらしい。千仁は政志をふりまわしているので、こうして目を泳がせているとき、困っているということを知っている。
    「そういう訳にはいかないだろ……、写真部の合宿って言い出したのは、千仁じゃないか」
     目を泳がせていた政志は、やがてぽつりと呟いた。困ったような、途方にくれたような色だ。
    「まあ、そうなんだけど」
     写真部の合宿と言い出したのは千仁なので、千仁もおもわず口ごもっていた。
     政志は暴走しかけていた千仁を見かねてついてきてくれただけなので、そんな顔をさせたくはなかったのだ。
     ふたりでこそこそと言い合っていた声は、思ったよりも大きかったらしい。壁の向こうで寮を見上げていたふたりが、ゆるりと首をめぐらせてくる。
     白いシャツを着た男の眠そうな目と、隣に並ぶ眼鏡の男と、千仁たちの目がぱっちりと合ってしまった。
    「あ」
    「あ」
    「……あ」
    「え?」
     どこか間抜けな声が四人分、潮の香り漂う空気にのっていく。四人は誰もが口を利かず、しばらく沈黙したままだった。
     やがて、沈黙を破ったのは、眼鏡をかけた男――諸泉眞二が深くついたため息だった。
     諸泉はいつも先生らしくワイシャツを着ているが、今日はラフに紺色のポロシャツを着ている。癖で跳ねている黒髪が風にゆれて、眼鏡のフレームにかかっていた。
    「とりあえず、何でここにいるのってところから聞くべきだな」

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