鳥も飛ばぬ冬の空は、どこまでもどこまでも広く澄み渡り、蒼く冷めきっていた。
「開門──ッ!」
荘厳な鐘の音が鳴り響き、門が開かれる。
紅玉のように輝く魔石を掲げた、王城の正門。
その両脇に聳える白亜の壁に陽光が反射し、押し寄せる民の顔を照らしている。
皆笑みを浮かべ、門の向こうを臨んでいた。
「聖光国第一王子・青芝蘭様のご入場です!」
彼らの視線の先、バルコニーの上に現れたのは、二人の従者を引き連れた一人の青年だ。
夜明け色の髪は段をつけて切り揃えられ、襟足は首の後ろでまとめられている。王城と同じ白を基調とした礼服に身を包み、彼は民の姿が見えるように前へ進んだ。黒の長靴が静寂を刻む。
「この日を迎えられて嬉しく思う」
城外にまで配置された兵士達。王子の胸元に輝く魔石と、兵士の持つ魔石とが音を繋ぎ、若々しい青年の声を遠くまで届けていく。
「集まった民よ、私は貴方達に感謝を伝えたい。この国が今この時まで平穏で在ったのは、ひとえに貴方達が私たち王族を信用してくれたからだ。そしてこれからも、どうか私を見守り、支えてほしい。次期国王となった暁には、貴方達から頂いた分の返礼を必ず果たす。宜しく頼む。……有難う」
薄い唇から紡ぐ声は、彼の考えを理解するものの心を掴んで離さない。
言葉が途切れ、一拍の沈黙を置いて歓声が沸き起こる。民の一人一人に応じるように、王子は笑みを浮かべて手を振る。
遠くから見ても、彼は目立つ容姿をしていた。
鋭く太い眉は意志の強さを思わせ、目つきの悪さと百九十近い身長が威圧感を与えるが、見た目とは真逆の甘く優しい声は馴染みやすく、穏やかな微笑みが距離の近さを感じさせる。
(俺は近くにいるから、よくわかんないけど)
本来の彼を知っている優越感から、自然と笑みが浮かぶ。どこか清々しい気持ちだった。
「何ニヤついてるの」
「いたっ」
浮ついた爪先を踏まれて、 直井ナオイ透火トウカは小さな悲鳴を上げた。民の歓声にうまく紛れたようで、従者二人の会話に王子は気付かない。
透火は金の両瞳で隣を睨んだ。桃色の髪を背中に払い、踏みつけた当人は眦の刺青を歪めるように、暗紫色の目を細めて透火を嗤わらう。
「そうしていると、聖歌隊の子供みたいよ」
言っているそばから聖歌隊の歌が始まる。鈴蘭の白い花をひっくり返したような制服は、幼さと可愛らしさを演出していた。
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