「母さんねぇ。宇宙人なのよ」
少年の母がそうカミングアウトしたのは、父が亡くなって一年目のことだった……。
「ほら、よくあるじゃないの。田舎の星に不時着した宇宙船を、地元の人が見つけて、乗っていた女の子と恋に落ちるっていう微笑ましいエピソード」
少年の母は、少女のように頬を染めた。
「母さんも王道をいっちゃったのよ。若かったわ……二人とも」
少年は、口に目玉焼きをくわえたまま、時計を眺めた。早く家を出なければ、遅刻である。
「でね、父さんが亡くなって一年……まだ心の整理は出来てないんだけど、母さんの親父……つまり、あなたのお祖父さんがね、家業を手伝って欲しいっていうメールを寄越したの」
少年は、目玉焼きを飲み込んだ。今日は、中学三年一学期の、期末テストの日。遅刻は出来ない。
「あなたを一人で地球に残して帰るっていうのも、心配なのよ。折角だから、一緒に帰りましょうね」
少年は、オレンジジュースを飲み干した。一時間目のテストは数学である。
「大丈夫、若いんだから、ちょっとした環境の変化にだってすぐに馴染めるわよ」
少年は、数式を反芻しながら玄関に向かった。
扉を開けると……そこは、宇宙だった。