★長編上等参加作品★
あらすじ
ある日、世界に大地震が起きた。ただその一言で表現してしまえばたった一文字にすぎないのだが、その被害たるものは散々だった。 辺境の村、ウル。村の裏手に位置する大山に穴が生じた。そこへ入ってみようと提案されているのである。 反対する大きな理由もないまま、ロザリオたち四人はその穴へ向かったのだが……。
FC版FINAL FANTASY3、シナリオベース二次創作・長編(全4巻:完結済み)
キャラクター、世界観、シナリオはゲームそのものですが、主人公となる四人のキャラはオリジナル。ゲーム未プレイでも普通のファンタジー小説として楽しめます。
サンプル
大地震、ただその一言で表現してしまえばたった三文字にすぎないのだが、その被害たるものは散々だった。 なんの予兆も無く起きた天災。自然の象徴である山々から落ちてきた多くの岩が家屋を襲い、またある山には大きな地割れが生じた。細かく砕かれた岩の欠片が空気中に漂えば、人々の体内に入り込むことで喘息を生じさせるだろう。それゆえ、直後は発熱に苦しむ人も多かったという。
パルメニ山脈に覆われた、サスーン国。海にこそ隣接していないため水害は起こらなかったものの、土砂崩れをはじめとした被害が起きた。先述の病気も加えて狼狽する国民に落ち着きを与えたのが、サスーン国王ダウである。
文武両道、聡明なダウによりここらの平和は保たれており、今回の大地震の際も、彼の指示による早急な復旧が行われた。それでも地震による商人のルート停止と、異形の魔物の出没だけはどうすることも出来なかった。
サスーン国に属する山奥の村、ウル。大地震から三ヶ月が過ぎ、ようやく田舎町らしい生活を取り戻したその場所で、妙な噂が広まっていた。
「その話は何度も聞いたよ」
村の奥。湖というほど美しくはないその水辺で、男が言った。言った、という表現は不適切かもしれない。彼は一人でそこにいるわけではなく、先の言葉も言われたことに対する返事であったからである。
まだ成人してはいないだろう。男性らしいがっしりとした体格をしてはいるが決して筋肉質ではない、むしろ細身の身体である。両手でしっかりと握っているのは木製の刀だ。よく見れば、その拳も首元にもうっすらとした汗が生じており、なるほどどうやら素振りでもしていたことが伺えた。現に、まっすぐと切りそろえられた茶色の髪からも汗が滴っている
「なぁ、リオ兄は興味ないの?」
「うーん……」
この青年、名をロザリオというのだが、周囲には『リオ』という愛称で呼ばれていた。
「俺はずっと怪しいと思ってたんだよ。だってよ、あそこだけ山の音が違うんだぜ。こう、空気が流れる音がするっていうか。ダーンのじいさんもトパパのじっちゃんも何も教えてくれないしよ……」
彼の隣では、芝生に腰掛ける金髪の少年がなにやら文句を言っていた。こちらも成人している雰囲気はなく、それどころかロザリオよりももっと若く見える。『兄』と呼んでいる以上、ロザリオよりも年下であるのは間違いないのだろうが、くりくりとした碧眼と言葉の節々が彼の幼さに拍車をかけていた。
「俺らさぁ、このサスーンから出たことないじゃん。このあたりもう遊び尽くしちゃったし。もちろん不満はないけど、こう、なんていうの?刺激とかほしいじゃん。男のロマンってやつ。冒険心をくすぐるような、さ」
「お前は落ち着きがないから心配なんだ、ハーヴェル」
「じゃあその落ち着きがない俺のためにもついて来てくれよ」
「そういう問題じゃないだろう……」
「ふんだ。リオ兄のケチ。そんなだから女性受けが良くてもスグにふられちま……いててっ」
「それとこれとは話が違うだろ?」
ロザリオがにこにこと満面の笑みを浮かべ、ハーヴェルの耳を引っ張っている。ロザリオが頬にかかるくらいのストレートヘアーであるのに対して、ハーヴェルの金髪は若者らしく短く切られていた。そのため、耳元は目立っており、つまみやすい。
もっとも、日ごろから頻繁にそんなことされてはたまったものではない。
「いてててててて。わ、わるかったよ!」
「ふむ?」
ぱっ、とロザリオの指が外れる。やや血色の良くなった自分の耳に手をかけて、ハーヴェルは話題を元に戻した。
「でもさ、みんなが教えてくれないからっていうのもあるじゃん。しかも今はみんな村の復興を優先してるから『穴』もふさがれちゃいない。本当に、リオ兄は興味ない?」
「興味ないといえば、嘘になるけど……」
ハーヴェルがずっと話題に出してきているのは、村の近くにあるひとつの山のことだった。
例の大地震でこの辺りに起きた三大被害。ひとつは、南の貿易町カナーンへ続く道に大岩が出来てしまったことである。先述した『商人のルート』がこれに該当しており、物資の流れが悪くなっていた。
もちろん、ダウが何の対処もしなかったわけではない。すぐに炭鉱と技術に優れた村カズスの職人に命じて岩を破壊させようとした。それにもかかわらず、なんの進展もないのだ。田舎町であるウルを訪れる商人や旅人はほとんどいないといえども皆無ではなかったが、今は言葉通り訪問者はいなくなってしまっている。
ダウからの追加の指示もなく、カズスでの動きもなく……カナーンからの物流の悪化がこれ以上続けば、遅かれ早かれ生活に影響が出てしまうのは目に見えていた。これが一つ目の被害である。
二つ目は、異形の魔物が増えたことだ。幸いにして、魔物の徘徊する時間は夜更けと決まっており、現状では対処も可能なのだが、いつ何が起こるかわからないという不安もある。こればかりはどうすることも出来ず、警備を強化することで対応していくらしい。
そして、三つ目の被害。これがハーヴェルの言う『穴』のことだった。
パルメニ山脈の特徴は、強靭な硬さといわれている。歴史があるというのはもちろんだが、職人の資源に用いられていたということもあり、山そのものが強くなっていった。そのため、これまでに起こった天災でも大きな被害は生じることはなかった。
そんな山に、大きな穴が開いたのである。
穴が空いた場所はちょうどウルの裏手に位置していた。様子を見に行った村人曰く、穴の先が続いているというのである。小さな村であるため、噂は瞬く間に広がった。普段であればウルの長老トパパや神官ダーンによって迅速な措置がとられるのだが、今回ばかりは例外でまだ手が回っていないというのだ。
これはしめた、とハーヴェルはすぐに思った。実のところ、ハーヴェルはその山をずっと怪しいと思っていたのだ。言わせれば、『空気が流れている』らしい。リオも一緒に調べたことがあるが、確かに『風のような音』を感じたと覚えている。ハーヴェルは、そこへ行ってみようと提案してきたのだ。
ロザリオの返事にハーヴェルはにやりと笑った。両の手のひらを『ぱん』と、景気いい音を鳴らしてあわせる。
そのリアクションに、ロザリオの顔がゆがんだ。表現するなら、『しまった』だろう。
「ほら、リオ兄も興味あるじゃんよ。そうと決まれば決まりな。まだ昼過ぎだし、これから行くよ!そういうわけだから、剣術の修行なんて今日はもう片付けてさ。じゃ、裏門で待ち合わせでよろしく!」
「え、いや、その」
「大丈夫。ローラとティスも賛成してるから!もう支度してるはずだし!」
ロザリオの反論を待たずして、ハーヴェルは駆けていった。
ぽふっ、と。芝生に木刀が落ちる。ローラとティスという、兄弟同然の友人たちの名を聞きながら、事態を避けるのが困難になったと、ロザリオは覚悟を決めた。